花と頭蓋

作者 夏野けい

桜のように咲き誇り、誰にも知られず散っていった彼女へ

  • ★★★ Excellent!!!

圧倒されるほどに、儚い。

それが本作を読んでの、率直な感想です。


仕事が続かず、無為な日々を過ごしていた主人公。そこに現れたのは、かつて憧れていた先輩の女性。

久しぶりの再会を喜ぶのもつかの間、彼女は常に物語をつづらなければ死んでしまう奇病にかかっていることを告白します。

なんとかして彼女を生きながらせたい主人公は、自宅に彼女を招き入れひたすら物語を書かせることに。

献身的なサポートを続ける中、それでも病気の進行は止まらず、最後には……。


物語をつづらずにはいられない性分の人間はいるもので、かくいう私もそうした人種の一人。しかし彼女はそんなレベルではありません。なにせ毎日物語を生み出し続けなければ、頭の中に桜のような花が咲いて死を迎えてしまうというのですから。

「頭の中に桜が咲く」なんて、受け取りようによってはロマンチックに聞こえなくもありません。ですが本物の桜と違って、花が散るときが大切な人の命が終わるときだと知ったら、誰もが平常心ではいられないでしょう。

そんな残酷な事実を突きつけられた主人公の苦悩が丁寧に語られる一方、まるで生気を燃やすかのように激しく執筆に勤しむ彼女が描かれます。

桜は一刻花を咲かせ、やがて散っていく。その「もののあはれ」に我々は魅了されるわけですが、本作の魅力はまさに一人の女性の生き様を通して描かれる「もののあはれ」にあるのかもしれません。

桜のように生き抜いた彼女の物語。ぜひお楽しみください。

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