邪魔者は全員退場させて頂きますね♪

空はすでに真っ暗となり、お見舞いに来てくれた三人を玄関まで見送ることになった。

「ま、マスターから離れたくない!」

「ユウヤくん、別れは寂しい。だが、これも運命だ」

「二人共、普通に明日また学校で会えますから」

「本当に? 風邪治る?」

「……多分、治るだろ」

「ユウくん。病は気からだよ! 弱気になっちゃダメ!」

「その通りだな。明日は学校へ行くよ……多分」

「多分ってまた弱気になっているぞ」

「まぁーそれよりも俺よりも三人の方が心配っていうか」

「一人入ってないのが、誰かが一番気になるんだけど。ユウくん」

「もちろん、恵梨香さんも入ってますよ」

「そう、それならいいんだけど」

「マスターがボクの心配を……でもいいんだ。マスターはボクが風邪を引いたら、お見舞いに来てくれるはずだ」

「俺じゃなくて、弥生先生が来てくれるから安心しろ」

「ギャァーそれだけはいやぁー」


理由は分からないが、レナは弥生先生を苦手としている。

良い先生だと思うけど、怒ったら怖いからだろうな。

普通にしていれば、レナだって怒られないものを。

自分から怒られることをするから悪いんだよ、いつもいつも。


「もちろん、私の家にも来てくれるのかな? ユウヤくん」

「……それは考慮しておきます」

「ユウヤくん」

なんだよ、このわざと名前を呼んで圧力をかけてくるなんて。

「行きますよ。行きますって」

「それはありがたい。今日は髪を乾かさずに寝るとしよう」

「もうすでに、寝るのを前提にしているじゃないですか!」

「まぁ、安心して大丈夫よ。姉さんは生まれてこの方、病気一つしたことがないから」

「どれだけ身体が頑丈なのだ」

「私だって、風邪を引いてみたいものだ。そして、ユウヤくんにお見舞いに……」

「そんな見え透いた嘘には乗りませんからね」

「むぅー、良いもん良いもん。家に帰ったら、紗夜ちゃんがいるから。紗夜ちゃんとずっと今日は遊ぶから」

「ボクも今日は録画しておいた深夜アニメを見なければ。楽しみー」

「姉さん。残念だけど、ワタシは学校の宿題があるから。それと、レナ。アンタもしっかりと勉強しなさい」

「ゲッ、真面目ちゃんがいる」

「真面目ちゃん言うな。それとレナは進級が危ういのよ」

「ボクに限ってそんなことないよ」

「普通にあるから言ってるのよ!」

レナって前回のテスト、殆ど赤点ギリギリか赤点だった気が……。

「でも、ボク。英語に関しては紗夜よりも良い点数だけど?」

だけど、レナは英語だけはできるんだよな。英語だけは。

「き、帰国子女が……その一点だけでマウント取ろうとするな!」

「胸でも勝ってるよ」

「ぐぬぬぬぬぬぬ……」

「何も言い返せないみたいだね。勝負ここで一件落着!」

「落着してない! 覚えておきなさいよ、レナ! 絶対に見返してやるんだから」

「そのセリフを吐いた時点で死亡フラグが立っているってことを紗夜は知らない。もうその時点で無理無理」

「レナちゃん、またまた紗夜ちゃんをいじめちゃダメ。紗夜ちゃん、大丈夫よ。私が家に帰ったら、バストを大きくするマッサージをしてあげるから」

「……で、でも……そんな簡単に」

「紗夜ちゃん、気からが大事だよ!」

「そうね。ワタシだって、ボインボインのミラクルボディになってみせるわ」

「しかし、紗夜はまだ知らなかった。胸が大きくことによって、肩が凝るこということを」

「変なナレーションを入れるな! レナ!」


「それと、真中。アンタ、今ニヤニヤしてたでしょ! 絶対に許さないわよ!」


「ニヤニヤしてはないっつの。ただ笑っていただけっていうか。賑やかで良いなーってさ。姫乃が今は居なくてさ、ちょっと家が寂しいっていうか。でもさ、みんなが来てくれたおかげですげぇー嬉しかった。本当にありがとう」


「ま、真中……」

「マスター」

「ユウヤくん」

「ユウくん」


「何か、しおらしくなってしまったな。じゃあ、また明日な!」


「絶対に来なさいよ!」

「分かってるって。紗夜も胸を大きくして来いよ」

「言われなくたってそうするわよ」

「流石にお姉ちゃんでも一日でバストアップする方法は知らないよ、紗夜ちゃん」

「……なんとかするわ」


「では、ユウヤくん。また明日だ!」

「はい、先輩!」

「キミが学校へ来てくれないと私は困るのだ。上靴の匂いしか嗅げないからな。私は革靴の方が好きなのだ」

「あの、言っている意味がわかりません」

「それはキミが……」

「家にたどり着くまでもう口を開かないでください」


先輩は従順な人なので、自分のお口を両手でわざとらしく抑えた。


「ま、マスター。ボク、やっぱり残りたい」

「却下だ」

「でも、ボクが居ないと風邪の化け物が」

「ノープロブレムだ。安心しろ」

そんな風邪の化け物とか存在しないから。

数年前に流行った妖怪のせいみたいにしなくていいから。

「ま、マスター」

突然、レナが抱きつこうとしてきた。

だが、レナの行動は紗夜によって封じられてしまう。

「ほら、レナ帰るわよ」

「ヤダヤダ。マスターの家にボクはいるんだ」

「無茶言わないの。さっさと帰るわよ」

「貧乳には分からないよ!ボクの気持ちなんて」

「貧乳は余計よ! アンタ、さっきからワタシをバカにしすぎね」

その後、ズルズルとレナは紗夜に引かれていった。

そして、真梨先輩は両手でお口を塞いだまま、瞳で「今日はありがとうございました。そして、上履きご馳走様でした」と俺に訴えかけてきた。

正直、考えただけで恐ろしい。あの先輩、未だに人の持ち物のにおいを嗅いでいるのだろうか。


「なんだか、とっても静かになってしまったね」

「そうだな。一気に静かになったな」

「本当、みんな個性的だよね」

「だな。逆にキャラが濃すぎる気がしないこともないかも」

「正直、わたしももっともっとはっちゃけた方がいいのかなーとか思ったり」

「恵梨香は今まで通りでいいんじゃないか?」

「……そっか。ユウくんは今まで通りのわたしが好きなんだ」

少しだけ悲しそうに恵梨香はポツリと口を開いた。

何かまずいことを言ってしまったのか。

俺と恵梨香は幼馴染だからこそ、多少相手の気持ちが分かる。

だが、何故彼女がそんなに悲しそうな表情をするのか真意は分からない。


(……もう、わたしユウくんが思っている良い子の恵梨香ちゃんじゃないのに。わたし、ユウくんが寝ている隙にキスしちゃうようなそんな悪い女の子だよ)


(でもユウくんはそんな悪い女の子であるわたしを知らないよね。ユウくんは今まで通りのわたしを好きみたいだけど、それは無理だよ。だって、今まで通りのわたしとかもう演じきれないよ。好きだもん、ユウくんのこと考えるだけで幸せな気持ちになるもん。ユウくんを見てるだけで、もっと喋りかけて欲しいとか。側にいるときはもっともっとわたしに触れて欲しいと思ってしまうもん)


(だけど、ユウくんには彼女がいるよね。姫乃ちゃんっていう可愛い可愛い彼女がいるって知ってる。でもさ、わたしだってこんなにも好きなんだもん。正直、どうしてユウくんの彼女がわたしじゃないのかって思ってしまうもん。わたしの方がたくさんたくさんユウくんの近くにいたもん。でもさ、ユウくんは今まで通りのわたしが好きなんだよね。今まで通りのわたしが。ユウくんに認められたくて認められたくて、可愛くなろうと努力し続けた女の子のことが)


(でもさ、ユウくん。わたし、もう我慢できないよ。それにユウくんは間違ってる。人間は成長するんだよ、身体も心も。わたしだって、おっぱいも少しずつ大きくなってきてるし、身長もちょっとずつだけど伸びてきた。それに少しでも可愛くなろうとおしゃれにも手を出した。全部全部、ユウくんを振り向かせるためだよ。ユウくんが初恋の女の子を想い続けるように、わたしだってユウくんだけを想い続けていたんだよ。ずっと近くで。ずっとずっと)


(だけど、もう諦めます)


(わたし……ユウくんを諦めることを諦めます)


「ねぇ、ユウくん」

部屋に戻ろうと歩いていたときだ。

突然、恵梨香に呼び止められる。

「何だよ、恵梨香」

そして振り返った瞬間であった。


チュ。


俺と恵梨香の唇が初めて触れ合ったのであった。

背が低い彼女は少しだけ背伸びして、俺の唇を奪ったのである。

その味はとても甘く、だがそれと同時に苦味があった。

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