お見舞い その1

「こ、これがマスターの家…………ムフフフ、マスターの家。久し振りー」と頬っぺたを緩めるレナ。

「ではでは、早速。物色と行こうか」と立ち上がり、家の中を探索しようと試みる真梨。

「姉さんは座ってて」とピシリと紗夜が言葉をかける。

「ちょっとぐらいはいいじゃない?」

「ちょっとも何も絶対ダメ。良いわね? 姉さん」

「はーい」と間延びした返事を返した。

「何だか、どっちが姉なのか分からなくなるね」と恵梨香は言葉を漏らす。

「大丈夫よ。恵梨香ちゃん! 紗夜ちゃんと私の違いは胸を見れば、一目瞭然だから!」

「ね、姉さん!」と顔を真っ赤にさせる紗夜。

「紗夜は貧乳。それは事実」とレナ。

「ウギャアー次、何か言ったら許さないわよ。歩く黒歴史!」

「まぁまぁ、落ち着いて落ち着いて。紗夜ちゃん。お風呂場でお姉ちゃんが胸を大きくするマッサージをしてあげるから」

「姉さんと一緒にお風呂に入る気はないから」

「ううー、振られたー。ユウヤくんにも振られたし…………紗夜ちゃんにも…………ううー。私はこれ以上どうやって生きていけというのだー」

「姉さん、みっともないからやめて。それに真中が寝ているのよ」

「そうですよ、先輩。これ以上うるさくするなら、帰ってもらいます」

「うう、ごめんなさい。お詫びにユウヤくんには私の愛するキッスをプレゼントでも…………三人とも睨みつけないで!」


「真梨、それは反則」

「姉さん、それは下劣」

「先輩、それは犯罪」


現在、彼女達が居るのは、真中裕也の自宅である。

彼女達が寛いでいる場所の近くには、裕也がベッドでぐっすりと寝ている。

何故、こんなことになったのかというと…………。


「ボクは行くぞ! ボクはマスターの家に行く!」

「学級委員であるワタシも行くのは当然よね!」

「お、紗夜ちゃんー。何か楽しいことを喋っているねー。何を…………ふむふむ。なるほど、ユウヤくんが風邪を引いているだと…………これは生徒会長である私が行くしかあるまい」


「「「ということで、恵梨香ちゃん。言っても良いよね?」」」


「ただのお見舞いなら…………ゆうくんも喜んでくれるかな…………?」


という流れで、現在に至るのであった。

それにしてもワンルーム八畳に五人というのは些か狭すぎないかと心配してしまうものだ。


「レナ! 何をやってるのよ」

「マスターの寝顔見てる」

「風邪が移るよー」

「風邪引いてもいい。マスターの寝顔を見れるチャンスは少ないから」

「ずるーい。レナちゃんだけずるいー。私もー」

「ああ、姉さんまでー」

「ああああー、ユウヤくん。可愛いィィぃー、私をどこまで興奮させる気なんだあぁー」

「姉さん…………」

「そんな汚物を見るかのような目を向けないでよ、紗夜ちゃん。ほら、お姉ちゃんだよぉー」

「汚物を見てるかのようなじゃなくて、汚物を見ている目だから」

「そんな目をしてたら、ユウヤくんに嫌われちゃうよぉー」

「いつも真中にはそんな目をしているけど…………」

「もうー本当に紗夜ちゃんって正直になれないよねー」

「べ、別にワタシはそんな正直とか…………」

「ほらほら、好きな男の子の寝顔を見てみなよ」

「ちょ、姉さん…………お、押さないで…………ん、真中ってこんな顔してい寝てるんだ」

「紗夜ちゃん、顔が赤くなってるー。やっぱり、ユウヤくんのことを」

「だ、だからそんなわけないって!」

「二人とも静かに! ユウくんが起きちゃう」

「…………何だか、マスター。赤ちゃんみたいだね。みんなから寝顔を見られて」

「それだけ愛されてるってことじゃない?」


「「「「それにしても寝顔可愛い」」」」


❇︎❇︎❇︎


「あ、起きた」

「マスター」「ユウくん」「ユウヤくん」「真中」

目を覚ますと、そこには俺が良く知る顔が四つ。

頭はスッキリとしているが、この状況を理解できなかった。

色々と思い出してみる。だが、さっぱり分からない。

「おい、恵梨香。これは一体どういうことだ?」

「そ、それは…………ごめんなさい」

「どうして謝るんだよ。見た感じ、俺のお見舞いか何かって具合だろ?」

「そうだよ、マスター!」

レナが俺に抱きついてきた。

「って、おい。レナ、いきなり抱きついてくんなって」

「マスターが心配なんだよぉー」

「くぬぬ、先越された」

「姉さん…………」

「レナに、真梨先輩に、それに紗夜まで」

「頼もうぉー。ユウヤくんが心配でついつい来てしまったよ」

「わ、ワタシは学級委員だからみんなの代表で」

「紗夜、嘘ついてる。マスターのこと、とっても心配してた。早退したって聞いて、一人でブツブツ呟いてた」

「ちょ、レナ! アンタ、何を言ってるのよ」

「でも、本当じゃん」

「紗夜、そのありがとうな。俺なんかのためにさ」

「…………何よ、調子狂うじゃない」

「あ、恵梨香。体温計持ってきてくれないか?」

「了解!」恵梨香がテーブルに置いていた体温計を渡してきた。

俺はそれを受け取り、体温を測ることに。


「ユウくん、喉は渇かない?」

「お水でも飲もうかな」

「了解! すぐに持ってくるね」

恵梨香は本当に働き者だな。

「マスター、ボクも今日は泊まっていい?」

「却下だ」

「えー」

「当たり前だ」

「ならば、私はどうだろうか?」

「当然ながら却下ですよ。それに今日は恵梨香が止まってくれると言ってくれていますし」

「それが問題なのよねー。学級委員としては、男女間のイザコザを起こしてもらうと厄介だし」

「男女間の問題…………?」

「そう。男女間の問題。真中はさ、姫乃ちゃんと付き合っているわけでしょ?」

「そうだぞ」

「でもさ、恵梨香ちゃんと一緒に寝るってことでしょ?」

「一緒に寝るというのは語弊が起きそうな言い方だが、泊まるという点ではそうだな」

「だからそれが問題だって言ってんのよ!」

「うんうん。ボクもそれは思う」

「私もだ! 生徒会長として、不健全な男女交際は認められないなー」

「真梨先輩に不健全と言われるのは腑に落ちないところがありますがね」


真梨先輩本人が不健全だし。歩く有害図書だし。


ピピ♪ ピピ♪

体温計の音が鳴り響いた。

さてさて、体温はどのくらいだろうか。


「37.2度か…………」

「マスター体調良くなってるね。でももう少しゆっくりしておいたほうがよさそう」

「そうか。これも私が愛のキッスをしてあげたおかげか」

「姉さん、そんなことしてないでしょ!」

「多分、皆が来てくれたからですよ」

「はーい、ユウくんー。お水持ってきたよ」

「ありがとう、恵梨香」

「いいよいいよ。幼馴染だし」

「えー恵梨香ちゃんとユウヤくんは幼馴染同士なのかー」

「私も知らなかった」

「マスターボクも知らなかった」

「いやーだって何も言われなかったし」

「まぁーわたしとユウくんは昔からずっと一緒だよねー」

「そうだな」

俺は恵梨香から受け取った水を飲む。

「あー悪い。恵梨香、コップ置いててくれ」

「了解!」

「って、今の時間は? 外も暗いようですし。そろそろ、三人は帰ったほうが」

「まだまだ大丈夫だよ」

「大丈夫って言われても…………それに俺の風邪まだ治ったわけではないので、移りますよ」

「大丈夫よ。こんな夏に風邪を引くのは真中ぐらいでしょ?」

「それを言われると終わりだな」

「恵梨香ー。何か食べたい」

「何か食べたいって…………レナ。流石に悪いでしょ」

「だって、お腹空いたもん」

「ユウくんー、何が食べたいー?」

「うーん、カツ丼とか?」

「本当、ユウくんはカツ丼が好きだよねー。でも、風邪引いてるのに食べれるー?」

「食べれる食べれる。恵梨香が作ってくれるカツ丼ならいくらでも食べれる」

「いいよー。じゃあ、作ってあげる。ただ、残さずに全部食べないとダメだよ」

「残すわけないだろ? 俺は恵梨香の作るカツ丼が好きなんだよー」

「マスターイチャイチャ禁止」

「不埒者」

「姫乃ちゃんにも教えとこー」

「…………それで三人も一緒に食べる?」

「食べたいー」

「ユウヤくんがそこまで絶賛するカツ丼は私も是非とも食べたい」

「姉さん、迷惑でしょ。ほら、レナも帰るわよ」

「大丈夫大丈夫。わたしは大丈夫だよ。でも、ユウくんがダメって言うなら……」

「俺は恵梨香が良いって言うなら」

「わたしは大丈夫」

「カツ丼♪カツ丼♪」

「浮かれすぎだろ。レナ」

「それは浮かれるよ。だって、みんなでご飯を食べれるって幸せじゃん」

「…………そうだな。レナ、もしもレナが寂しくなったら、いつでも俺のところに来ていいからな?」

「本当、マスター!」

パッと明るい表情になって喜ぶレナ。

「うん、本当だよ。レナ、姫乃がいたから遠慮してただろ?」

「…………う、うん」

「でもいいんだよ。いつでも来ても」

「マスター大好きー♡」

「ユウヤくん、わ、私も来てもいいかな?」

「来てもいいですよ」

「わーい。これで毎日でもユウヤくんに会える」

「姉さん、毎日はやめてね。ユウヤくんも姫乃ちゃんも困るだろうし」

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