幼馴染ちゃんは諦めきれない

平日の昼間。普段なら授業を受けている時間帯。

俺と恵梨香は学校を後にし、自宅へと向かっていた。

それにしても立ちくらみがエグい。

やっぱり、体調不良の時ってキツイ。

「ユウくん…………本当に大丈夫なの?」

「大丈夫だっつの」

「そんなことを言いながら身体はフラフラだよ」

「だ、だから心配するなって」

や、ヤベェー。立ち竦む。

「ほら、やっぱりダメだよ。ほら、わたしに腕を貸して」

「ええーちょっと待てって」

「わたしは何も言わないから」

「え?」

「そのさ、姫乃ちゃんに罪悪感とかあるんでしょ?」

「それはまぁー」

「だから大丈夫だって。わたしは何も言わないから。それにわたしとユウくんって幼馴染同士でしょ?」

「まぁーな」

「だからさ、わたしをもっと頼ってよ」

なんだか、とっても恵梨香が頼もしく見える。

うう、幼馴染。最強すぎるだろ。

「…………どうしたの? ちょっとボォーとして」

「いや…………ゲホゲホ。そのさ、ゲホゲホ」

「だ、大丈夫?」

恵梨香が俺の背中をさすってくれる。

ただ、さすってくれているだけなのにとっても癒された。

「あー悪いな。迷惑かけて」

「だからわたしたちは幼馴染だからって言ってるでしょ。それにあの時の恩返しがしたいって思っていたし」

「あ、あの時?」

「あーその先輩のこと」

「…………あーあれのことか」

先輩のこととは、恵梨香に付きまとっていた一個上の先輩のことである。

「そのさ、あの時さ。本当はとっても怖かったんだ。でも…………ユウくんが来てくれたから」

確かに、あの時の恵梨香は泣いていたっけ。それに身体をガクガク震わせていたし。

「だって、俺ら。幼馴染だろ?」

「う、うん!」

恵梨香がニコッと微笑んでくれた。

その後、俺は恵梨香に肩を貸してもらい、どうにか家に帰り着くことができた。


「ユウくんの家に来たの久しぶりだなー」

「まぁーいつも姫乃がいるからな」

「そうだねー。でも今日はいないね」

何か含みがあるような言い方である。

「あーええと、そのありがとうな。恵梨香」

「どういたしまして。それよりも思っていたよりも片付いてるね」

「姫乃が色々うるさいからなー。多分、家に帰ってきた時に片付いてなかったら色々と言ってくると思うし」

「ふーん。そうなんだあぁー」

恵梨香はどこかつまらなさそうに呟いた。

「って、もう俺はこのまま寝るから。恵梨香、もう帰っていいぞ」

「…………もう帰っていいってちょっと酷くない?」

「酷いって言われても…………俺は風邪を引いてるわけだし…………ゲホゲホ」

「ほら、やっぱり大丈夫じゃないじゃん。このままユウくんを一人にして学校へ帰れるはずがないじゃん」

「…………これぐらい大丈夫だって。寝れば勝手に治るから」

「…………このまま放っておくことができるわけないじゃん」

「いいから学校へ戻れ」

「いや。このままユウくんを見捨てて学校へは戻れない」

「…………言うと思った。だからさっさと帰って欲しかったんだよ。だって、風邪とか移したくないし…………」

恵梨香が俺のおでこにデコピンしてきた。ジンとくる痛みであった。

「…………ユウくんのバカ。風邪ぐらいでユウくんの側からいなくなるわけじゃん」

確かに恵梨香は子供の頃からずっとずっと俺の側にいてくれた。

俺が皆んなから煙たがられていた時も…………ずっとずっと。

側にいてくれたのは、恵梨香だった。


「お互い様だな」

「お互い様だね」


「だけど、もう戻れ。俺のせいで恵梨香が授業に出られないのはちょっとダメっつうか」

恵梨香はむくっとした表情を見せる。

「わたしには授業よりもユウくんの方が大事だし」

「学生は勉強に勤しまないといけないだろ」

さらにムクッとほっぺたを膨らませた。

そして良いことを思いついたと言わんばかりに口を開く。


「あ、そうだ。ユウくんが眠るまでは一緒に居てあげる」

「一緒に居てあげるって…………」

「だって、心配だもん。ユウくんが本当に眠れるか」

「子供じゃないんだから。大丈夫だよ!」

「でもさ、やっぱり風邪引いてる時とかは誰かと一緒に居た方がいいって言うか」

「子供じゃないんだから。いいんだよ」

「ユウくんはまだ子供です」

まぁーまだ未成年だから、子供だけどさ。

なんだ、この屁理屈。

「ほら、寝ていいよ。眠るまで手を繋いでいてあげるから」

スゥーと手が伸びてきて、俺の手を握ってきた。

俺はベッドに潜り込み、顔を少しだけ隠した。


「要らないって別に…………」

その手を離そうとするが、動かせなかった。

風邪が悪化したのだろうか。それとも、居心地の良さに惑わされたのだろうか。


「ほら、ユウくん。おやすみー」

「うん、おやすみ」

「子守唄を歌ってあげようか?」

「いいです。静かにしてください」

「分かったよ。じゃあ、静かにユウくんの寝顔を見ておくね」

「それはやめて!」

「姫乃ちゃんに送ってあげようかな?」

「それはやめろ。姫乃は現在両親の元に行ってるし。迷惑はかけたくないから」

「ふーん。かっこいいじゃん」

「まぁーな。一応、あの東條姫乃の彼氏だし」

「何それ……」と恵梨香がクスッと笑った。



❇︎❇︎❇︎


「ねぇーユウくん。もう寝っちゃったの?」

「………………」

「そっか。寝たのか…………それにしてもユウくん、かっこいいなぁー」

「一枚ぐらいならいいよね。これはわたし用だし」

「あー撮ってしまった。写真を撮ってしまったぁー。これバレたら…………色々とユウくんにバレそう。あ、そうだ。ツーショット写真も撮っておこ」

「…………我ながら、結構いい感じに撮れた」

「でも、これは絶対に他の女の子にバレたらダメ。わたしだけの秘密にしなきゃ」

「…………ユウくんの手、暖かい。それにゴツゴツしてるー。やっぱり男の子と女の子って全然違う」

「あ、それより…………わたし、もうそろそろ学校へ戻らなきゃ」

「…………うう。ユウくん、手を離してよ。完全にギュッと握ってる。これじゃ、学校へ行けないよぉー」

「…………わ、わたし。このまま離してくれなかったら、本気で好きになるかもしれないよ。それでもいいの?」

「…………全然、離してくれないー。どうしようー」

「もうーわ、わたし。キスしちゃうぞ。このまま離してくれないなら、いたずらしちゃうぞ。それでもいいのー?」

「…………もうー完全に寝てる。本気でするよ。もう、後戻りはできないよ」

「…………あ、ユウくん握る力が強くなった。もしかして…………してくれってことなの? わたし本気だよ。本当にいいの…………?」

「…………う、また強くなった。わたし、本気でするよ。冗談じゃないからね」

「…………ユウくんが悪いんだよ。わ、わたしを本気にするから…………チュ」

「してしまった…………わ、わたし。してしまった…………まだほっぺただったけど、寝込みを襲ってしまった…………キャァー」

「あ、ユウくんの手…………」

「離れちゃった」

「学校に行ってこいってことなのかな? 寝てるときでもユウくんは、本当にユウくんだね。女の子を弄んでさ」

「…………でも、わたしにはユウくんしかいないから。このままさ、諦めきれるわけないじゃん。この好きって気持ちをわたし…………抑えること無理だよぉ。やっぱり…………」

「あ、もうこんな時間だ。…………じゃあね、ユウくん。また、後から来るね」

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