バカは風邪を引かないというけれど…………

「ゲホゲホ」

「ジュルジュル…………」

「ゲホゲホ…………」


ミンミンと蝉の鳴き声が聞こえ始めてきた七月中旬。

あともう少しで夏休みという時期。生徒達は暑い暑いと愚痴を零す中、俺は一人風邪を引いていた。


じゅるり…………うわ、また鼻水がごきげんようと出てきた。

もう出てくるんじゃねぇーと鼻をかむけれど、すぐに鼻水が出てくる。


何度も鼻をかむせいか、赤く腫れ上がっている。

それに耳の方を痛いし、聞こえ辛い。


「ねぇー真中。アンタ、大丈夫?」


流石にいつも敵意をむき出しにするあの如月さえもが、俺に心配する始末。

これは余程のことである。


「大丈夫だよー。すぐに治るって…………ゲホゲホ」


「全然大丈夫ではないと思うんだけど」


「マスターが苦しむ姿を見たくない。マスター、ボクは風邪を治す方法を知ってるよ」


正直、この風邪を治す方法は知りたくて仕方がない。

猫の手でも借りたいぐらいである。


「頼む…………教えてくれ。レナ」


「それはね、ボクにキスをすることだぁ!」

堂々をレナは宣言をした。正直、ツッコミを入れる元気もない。


「どうして?」と如月が尋ねる。


「ふふふっ、決まってるじゃないか。風邪を移すためだよ」とレナがドヤ顔で言う。


「つまりは、風邪を移せば早めに風邪が治るって言いたいわけ?」と呆れた様子の如月。


「そういうこと」とえっへんとレナは言って、目を閉じてゆっくりと唇を俺の方へと近づけてくる。


「病人に手を出すのはやめなさい。それと彼女がいる人にキスしようとしない!」とぺしりと叩かれる如月。


「イタタ…………イタイよぉー」


「もしも今本気で真中に何か良からぬことをしていたら、あなたもっと酷い目に遭っていたと思うから安心しなさい…………」と何か意味深に答える如月。


レナがどこか遠くを見て、

「…………ひ、ヒィ」と声を出してしまった。


また、身体を縮こまらせ、驚いた。

正直、何が原因なのかさっぱりだ。


「そんなにキツイならどうして休まなかったのよ」


「俺が学校を休むと言ったら、姫乃だって家に残るとか言うからさ」


「あーなるほど。つまりは心配をかけないためにってことね」


「そういうこと…………ゲホゲホ」


「アンタさ、保健室に行きなよ。早退した方が良くない?」


「これぐらい大丈夫だっつの。すぐに治るって…………ゲホゲホ」


「バカは風邪を引かないと言うけれど、アンタでも風邪を引くのね」


「引くに決まってんだろ」


「でもまぁー。今は夏だけど」


「それを言われると恥ずかしい限り」


「というか、どうしてこんな暑い世の中で、風邪とか引いたのよ」


「さぁー分かんないよ」


と、ここで客人がやってきた。

栗色ショートヘアの愛らしい女の子である。


「おい、見ろって。恵梨香ちゃんが来たぞぉー」

「うわぁ。本当にかわええぇー」

「と言うか、隣のクラスの美女が俺のどうしてここへ? もしかして俺の為に…………ニヤリ」

「違う違うって。俺だって。多分、俺のことを思って……」


バカな男子達が声をこそこそと会話しているのが聞こえてくる。


「あのーゆうくん居る?」


「ちっ…………またアイツか。あのやろう! 俺らの神様…………東條さんを始めとして、レナちゃん、それに生徒会長の妹である紗夜様までを手玉にしてるアイツが…………さらには恵梨香ちゃんまで…………」


「ちょっと、アンタ達。生徒会長の妹は余計よぉ!」と如月が訂正を求めていた。

やはり完璧超人である生徒会長のネームバリューが大きいみたいだな。


恵梨香は俺を見つけると、すぐに俺の元へやってきた。


「ゆうくん。今日はわたし、泊まらせてもらうから!」


「…………えっ?」


「楓ちゃんから連絡が入ったの。お兄ちゃんの看病をしてあげてって」


「…………本当かよ、それ」


「そう。それに今は東條さんも留守中でしょ?」


「あぁー実はな」


実は姫乃は何日か前に俺たちより一足早く夏休みに出かけてしまった。

何だか親の都合とやらで行かなければならなかったらしい。

それで現在俺は一人なのだ。だから姫乃は俺が風邪を引いていることを知らない。


「…………若い男女が同じ部屋にいるのは感心できない。私も参加させてもらおうか!」


如月が参加を表明した。それに負けじとレナも言葉を紡ぐ。


「ぼ、ボクだってマスターの看病がしたい! というか、マスターの家に行くの久しぶりだなぁー」


「おいおい…………お前ら、お泊まり会じゃないんだぞ!」


「…………それぐらいは知っているわよ。ワタシたちはあくまでも看病をしに行くの。それに抜け駆けしようとしないようにしっかりと見張る必要はあるし」


一体何の見張りだというのだ。それに抜け駆けとか。


「ゲホゲホ…………流石に無理だっつの。どんなに頑張っても、恵梨香一人で十分っていうか。だってお前らいつもうるさいし…………それに風邪を移したくないっていうか」


「その言い方、わたしには移しても何も問題がないみたいな感じなんですけどー」


「嫌だ! ボクは絶対に行くぞ!」

「ワタシだって行くわよ。絶対に!」


「だから無理だって」


「でもみんなで行った方が楽しいと思うけどなー」


「あのなー恵梨香さん。パーティとかじゃないんだからさー」


「まぁ、そうだね。ということで、二人は無理だから!」


「えーでもボクも行きたい。マスターにお仕えするのが仕事なのに」

「ワタシだって……」


「じゃあ、二人は何ができる? 料理とか洗濯とか掃除できるの?」


「「ええと、全くできません…………」」


ということで、俺の家に恵梨香だけが泊まることが決定した。

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