放課後は寄り道に限る

「はぁー……本当に散々だったぜ」

夕日が暮れ、少しだけ薄暗い空を見上げながら呟いた。

「マスター本当にごめんなさい。ボクのせいで一緒に居残りさせてしまって」

「別にレナが謝ることじゃねぇーだろ。アレは全部とばっちりみたいなものだと思うし」

「そうだね。今日はいつもと増して結構苛立っていたし」

「たしかに。多分、まだイライラしているんだろうよ」

「イライラ? 何かマスターは弥生先生が怒っている理由を知っているの?」

「理由とかは分からないけどさ。最近は疲れているみたいなんだよ。何か心ここに在らずって感じ」

「ふーん、そうなんだぁー」

「でも先生の苦労が少しは分かった気がする。特にレナとか」

「ん? ボクがどうしたの?」

「いや、やっぱり何もない」

「あ、そうだ。マスター!」

何か名案が浮かんだとばかりに、レナが明るく表情を見せる。

「どうしたんだ?」

「あのさ、マスターはクレープとアイスならどっちがいい?」

「んー。どちらかと言えば、クレープだな。って、これは何の質問だ?」

「なるほど。流石はボクとマスターの仲だね。ボクもクレープがいいと思っていたんだ。じゃあ、クレープに決定だね!」

そういって、俺の腕を掴んで元気いっぱいに走り出すレナ。

「ちょっと待てって。いきなりどうしたんだよ!」

「まぁまぁ、いいからいいから」

その後、俺はレナが引き連れられるままに従うことにした。

そこは学校近くの公園。そしてそこには、クレープ屋さんがあった。

若い女子高生がズラリと列を作っていた。それに見渡してみれば、ベンチに座る人たちもクレープ片手に楽しそうに喋っている。

なんだよ、このクレープブームは。それに同じ制服の人たちもいるし。

「なんだよ、アレ」

「最近出来たらしいよ」

「誰から聞いたんだ?」

「ふ、ボクの情報網をバカにしないでくれよ、マスター」

やれやれと手の平を見せる姿がちょっとうざい。

「違う違う。レナって甘いものとかそんな好きじゃないと思っていたからさ」

「失礼な。ボクだって甘いものが好きだよ」

「そんなことを言いながらも中学時代はスルメ片手に学校登校してたじゃないか」

「まぁー今でもスルメは大好物だけど! 甘いものも好きなの!」

「なるほどー。それにしてもレナがこんなお洒落なクレープ屋さんを知っているとは本当に意外だな」

だって、こんなリア充御用達な感じの場所を一番嫌いそうなタイプだと思うし。

「まぁーね。これぐらいは知ってて当然だよ」

「それで誰に聞いたんだ?」

「…………」

「ん? どうした? 誰に聞いたんだよ?」

「…………マスターの意地悪。ボクに友達と言える人物がいないって知ってるくせに」

言われてみれば、レナっていつも単独行動してるしな。

「…………それで誰から聞いたんだよ?」

「…………クラスの人たちが喋っているのを聞いた」

「つまりは、盗み聞きしてたわけか」

「マスター言い方ってものがある。それは言っちゃダメ」

「あ、悪いな。それでその話を聞いて、クレープを食べたかったわけか」

「うん」

「それなら一人で食べに行けばよかっただろ?」

「…………それは無理。ちょっと行きにくい」

まぁ、レナにはちょっとハードルが高すぎるか。

「それで俺を誘ったわけか」

「…………そう。それに、マスターのいっぱい迷惑をかけたからお礼も兼ねてる」

「なるほどな」

「じゃあ、ほらさっさと並ぼうぜ。食べたくて食べたくて仕方がなかったんだろ?」


「うん! 流石はマスター! やっぱり、ボクはマスターが大好き!」

飛び跳ねてそのままレナが俺に抱きついてきた。

どんだけ嬉しがってんだよ、本当に。子供だなーレナは。

でもさ、そんなふうに喜べるって本当に羨ましいぜ。


列に並び始めてから、二十分後。

クレープを購入できて、俺たちはベンチに座ることにした。

ちなみに俺がミックスクレープ。レナがイチゴクレープである。

ホイップクリームが落ちそうなぐらいにかかっており、本当に美味しそうだ。


「マスター……とっても美味しい」

もぐもぐと小動物のように食べるレナ。

「そっか。それは良かったな」

俺に目を向けることなく、夢中でクレープを貪るレナ。

本当に食べたくて食べたくて仕方がなかったのだろうな。

俺もミックスクレープを食べてみることにした。

「…………う、美味いな。これ」

「本当? マスター、ボクそれも食べたい」

ヨダレを垂らしながらこっちを見てきた。

どれだけクレープに毒されているのだろうか。

「ボクのもあげるから、はい。マスター交換」

「ほら」

「口移しでもいいよ?」

吹き出してしまった。

「…………おい、一体。何を言っているんだ?」

「マスターの口移しで食べたいなーみたいな」

「それはないから安心しろ」

「じゃあ、マスターに食べさせてほしい」

「ん? 食べさせる? つまりは?」

「マスターラブコメ主人公失格」

何故か俺はラブコメ主人公失格の烙印を押されてしまった。

「こうするの!?」

レナが両手でクレープを俺の口元へと持ってきた。

「つまりはこれで食べろってことか?」

ちょっと顔が熱いんだが。これって結構恥ずかしい。

それに近くの女子高生達の視線が俺たちに向いているよ。

「そう。早く! 口を開けて!」

「あー分かったよ」

モグモグ。イチゴのクレープ悪くないな。

「イチゴの量もそこそこあって、クリームとの相性もいい」

「でしょでしょ? 次はマスターのも食べたい!」

口を開けて、レナが目をつぶって待機中。

「あーん♡」

理由は分からないけど、イケナイ気持ちになってきた。

なんだろう、この気持ち。

「マスターまだ?」

片方の目だけを開け、俺にさっさとしてと不満を漏らしてきた。

グズグズする男は嫌われるというが、本当なのかもな。

レナの小さい口の中にクレープを入れる。すると、モグモグ。

可愛らしくレナがほっぺたをリスのように動かして食べ始めた。

「マスターの味がする」

「俺の味はしません!」

「マスターの匂いがする」

「クレープの匂いしかしません! というか、ちょっと食べただけで俺の匂いがするって絶対やばいから!」

「授業受けるとき、マスターの後ろの席でクンカクンカしてる匂いー」

「クンカクンカしなくていいから!」

「あ、これはマスターの体育後の甘酸っぱい味だぁー」

「変な情報を俺に教えるな!」


✳︎✳︎✳︎


「ふーん。それで私の作った夕飯は食べられないと? せっかく……私、ユウの為に作ったんですよ。それなのに……ユウくんはー」

自宅へと帰宅。そこにはいつものように美味しそうな料理が並べられていた。

でもクレープを食べたばっかりなのであまりお腹が空いてない。

「悪い悪い。冷蔵庫で保存してくれたら、絶対に残せず食べるからさ」

「むーそれなら別にいいのですけど……でもあの病人と一緒にクレープ屋さんに行ったのは許せてないです! もう、それ浮気ですー!」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます