如月真梨ちゃんは諦めない!

 放課後。俺は姫乃からの束縛から逃れるように教室を飛び出し、生徒会室へと足を踏み入れていた。

 するとそこには、定位置と呼ぶべき生徒会室のリクライニング椅子に座り、書類に目を通していた。そして、険しい表情のまま顔をあげる。

 もちろん、俺の顔を見ると、パッと表情を変えた。どうやら俺がこの教室に入ってきたことに気づいていなかったみたいだ。


 「こほん!?」と大きく咳払いをしてから、彼女は恥ずかしげに口を開いた。


 「よくぞ、ここまで来てくれたな。ユウヤくん!」

 そこにはいつも通りの威厳を保った真梨先輩の姿があった。


 「何だかとっても大げさですね」と苦笑い。


 「それでここに来たということは……生徒会に入りに来たわけか。うむうむ、流石はユウヤくんだ。私の後を継いでくれる人材を探していたのだ」


 先輩の後を継ぐ人。ということは、先輩は俺を生徒会長にしたいということなのか。

 でも、俺はそんなできた人間ではないし。それに他にも生徒会長になりたいと思う人がいると思うし。


 「残念なことに俺は生徒会に入る気はありませんよ。ただ、一言伝えにきただけです」


 「私への愛の告白というのなら話は聞かなくもないが……」


 「残念なことにそれはないです」


 「……そんなにはっきりと言わなくても」


 「色々と姫乃がうるさくて……」


 生徒会長をどうにかしろって。

 それに紗夜からも姉をどうにかしてほしいと言われているし。


 「それでこれ以上私を傷付けて、何をしたいんだ?」


 「傷付けるつもりはないんですがねー」


 「そ、その私の方からも先に告げておくぞ。私は……ユウヤくんをまだまだ諦めたわけじゃないからなぁ! そうだなー、ここで既成事実とやらを作ってやってもいいのだぞ」


 「先輩……やめてください。それと、ブラウスのボタンを外そうとしないぃ!」


 「で、でも……私はユウヤくん、キミのことが本当に好きなんだぁ!」


 「それは以前から気付いてました」


 「で、では……付き合おうではないかぁ! 私は別に、愛人という役割でもいい! キミの力になりたいんだ。キミの側にいたいんだ」


 「先輩……安売りはやめてくださいよ。先輩はとっても綺麗な女性なので……俺には勿体無いです」


 「そんな美しい女の子をあっさりと振った癖に……」


 「……それを言われると言い返す言葉が」


 「ユウヤくん、こんなことを言うのはどうかと思うが、私達の関係は一体なんだろう?」


 俺と真梨先輩の関係?


 先輩と後輩。そんな感じの関係?


 生徒会長と一般生徒とか。


 「んー、何でしようね。考えたこともありません」


 「そうか。考える暇も無く、夫と妻ということなのか」


 「あのー一度もそんなことを言った記憶がないのですが」


 「頭を叩いたら記憶が戻るかもよ」


 「それはテレビの映りが悪い時にする行為じゃないですか! 人間では戻らない!」


 「ちなみに私的には、振った男と振られた女かなと思っているよ」


 「あの一度も俺は先輩を振ったことなどないのですが」


 「でも同じようなものではないか。私を見捨てて、姫乃ちゃんと付き合うなど許さないぞ! それに私に対して一言もなかったのは些か気分が悪いのだ」


 「あのーどうして俺は……先輩に一言言わなければならないのでしょうか」


 「それは……もちろん先輩としてだよ。もっとキミのためにと思って……アァー違う。今日という今日は違うのだ。もう、私は正直になるのだ。

 私は、キミのことが大好きなのだ。もっともっとキミのためになりたいのだ」


 「あのー実は先輩が俺のことを好きだったということは知ってます」


 「……なぁに!? バレていたのか……」


 「それはまぁー。だって、先輩って分かりやすいじゃないですか」


 「むむむー。なんだなんだ。全てが全てが筒抜けだったのかぁー。それで返事は?」


 「先輩の気持ちはとっても嬉しいです。でも……俺には姫乃がいるので」


 「安心してくれ。姫乃ちゃんはさきほど私が抹殺しておいたから」


 「先輩ならやりかねないのが怖い」


 「まぁまぁ嘘だよ。姫乃ちゃんは私にとっても可愛い後輩だからね。それに友達だから」


 「その友達の彼氏を奪おうとするのはちょっとなぁーと思うよ」


 「それは本人から了承済みだ。ゆうくんは絶対に私を選んでくれるんだって言っていたよ。それだけキミを信頼しているのだろうね」


 「ひ、姫乃……」


 姫乃って俺のことをそんなに思ってくれていたのか。

 これはとっても嬉しい。今日家に帰ったら、彼女の頭を撫でてあげよう。


 「それに私もずっとずっと自分の気持ちに正直にいたいからね。だって、気づいた時には姫乃ちゃんが一人勝ちしてたからねー」


 「まぁ、それはそうですよねー。あまりにも突然に俺たち付き合い始めたわけですし」


 「ということで、姫乃ちゃんと別れて私と付き合うのだ」


 どうしてそうなるんだよ。


 「無理ですって。俺は姫乃と一生を添い遂げるって決めたんですから」


 「ユウヤくん。キミも結構メンヘラだよ」


 「え?」


 「一生を添い遂げるとか正直重いと思うのだよ」


 「そ、そーですか?」


 「あぁ、重いね。うむうむ、これは重い。だからさっさと姫乃ちゃんと別れて、私と新たなラブコメを始めよう!」


 と、その時だった。ドアがガラガラと開いて、一人の少女がやってきた。


 「姉さん……何をやっているのよお。ほら、帰るわよ」

 そこに来たのは、如月紗夜だった。


 「それと彼女持ちの男を口説かない!」


 「そんなことを言いながら……ユウヤくんが付き合ったと知って涙ぐんでいたのお姉ちゃんは知っているよぉー」


 「姉さん……これ以上口を開かないで!」


 「まだ仕事がぁぁぁぁぁぁぁー」


 「ほら、嘘を付かない。姉さんが優秀なことは知っているから」


 「まだまだユウヤくんと一緒に居たかったのにー。もっともっと一緒に居たかったのにー」


 「それが目的だったわけね。もう、真中帰っていいわよ。それと、本当にごめんなさい。姉さんが何か変なこととか言ってなかった?」


 「別に何も言ってないぞ。じゃあ、俺はもう帰るから」


 「うん。じゃあね、真中」


 「また明日も明後日も生徒会室へ来てくれー」


 俺は二人の声を背に聞きながら、部屋を出た。


 カバンを取るために教室に戻るとそこには……水無月レイナが居た。


 「マスター。助けてぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーー」

 涙を流して、鼻水をズビビィーと啜り上げるレナ。


 これはまた一波乱がありそうだ。

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