番外編

如月姉妹の日常

 「ハァー」と深い溜息を吐いてしまった。


 本当に今日は散々だった。クラスメイトの女の子がパンツを履いてなかったので、


学級委員として一緒にパンツを脱いだのに彼女は元々体操服を忘れて持ってきていなかったのだ。

 だからワタシはノーパンで体育の授業を受けたのである。


 それに体育の授業後、どんなに探してもパンツが見つからなくて……そのままノーパンで過ごしていたら……あの中二病金髪ツインがワタシのパンツを持っていた……。


 そして、それを授業中に取り出して、ビヨンビヨンと伸ばして遊んだのである。それを見て、あの男は……‥あの真中裕也という男は笑ったのだ。


 ワタシのパンツを見て、笑ったのである。憎い!! あの男が憎い!!


 もしかして、ワタシが履いていたパンツがまだまだ子供っぽかったってことなの??


 これでも結構、際どいパンツを履いて大人っぽくみせてるのに。


 それなのに、まだ子供扱いされてしまうのか。やはり、ワタシはまだまだ子供なのだろうか。やはり、姉に比べてまだまだ劣っているということなのかもしれない。


 と、そのときだった。隣の部屋から変な声が聞こえてきた。


 「……くん、……くん……くん」


 はっきりとは聞こえないが、何かを言っていることだけは分かる。

 それにベッドのギシギシする音も聞こえてくるのだが……。


 ちょっとだけ気になるので、ワタシは姉の元へ向かうことにした。


 トントン!! と軽く二回ノックする。


すると、彼女は返事は気怠そうに「はぁーい」と返してきた。


 学校ではいつも真面目でクールだが、家ではどちらかと言えばぐったりしてる姉である。まぁ、その裏の顔を知っているのが自分だけという点にワタシは優越感がある。


 「どうしたの? 紗夜ちゃん? お姉ちゃんに抱きしめられたくなった?」


 姉はワタシを溺愛している。それは本当にありがたい話である。正直、ワタシだって、姉が好きだ。だが……姉にはワタシ以外にもう一人好きな人がいる。


 「姉さん……はっきりと言うけど、この部屋の壁に貼っている真中くんポスターは今すぐ破棄してください」


 そうなのである。ワタシの姉である、如月真梨の執着心は異常なのだ。

 だから彼女は好きな人の写真や使った物などを集め、自分の部屋に飾っているのだ。


 ワタシが昔、憧れていた完璧な姉はどこへやら……それも全部、あの男のせいだ。


 あの男さえ居なければ、姉は変わらなかったはずなのに。


 「あ、紗夜ちゃん。今、ユウヤくんのことを憎いと思ったでしょ? でもダメだよー。ユウヤくんは紗夜ちゃんが思っている以上に良い人だよ。だからしっかりと見てあげなきゃ」


 同じようなことを東條さんにも言われた気がする。ユウヤくんに対して、誤解してるとか。たしかにワタシの勘違いで、彼は良い人だったのは認めるしかない。それにワタシが毛嫌いしてたことも認める。


 でも分からない。何だろう、アイツのことを考えると変なモヤモヤがあるのだ。

 だが、それが何か理解できない。だからこそ、自分の気持ちに正直になれないのだ。


 「あ、もしかして紗夜ちゃん。私がユウヤくんにぞっこんだから、嫉妬してるんだねー。もうぉー早めに言ってくれれば、良かったのにー」

 そう言って、姉が突然ベッドから飛び起きて、ワタシにギュッと抱きしめてきた。

 本当に胸が大きいなー。ワタシは小さいのに……姉は大きい……何かムカつく……。


 姉妹なのに、何故こんなにも差があるのか。



ワタシをベッドの上に投げ飛ばし、襲いかかってくる姉。ワタシの上に跨って、こちょこちょをしてきた。


 その後はもうただの拷問だった。姉に色々と不満を聞かれて、それを正直に答える。

 嘘を言うと見抜かれて、こちょこちょをされてしまう。姉と居ると、小さかった頃を思い出すことができる。まだワタシが小さくて、あまり友達がいなかった頃の。

 ワタシの手を引っ張って、連れ出した姉の姿が脳裏に浮かび上がってくる。


 「お姉ちゃん……大好きだよ」と本音をぶつけてみる。


 「私も大好きだよー、紗夜ちゃんのこと」と言って、姉がワタシを優しく抱きしめてくれた。



 「ところで、姉さん。さっきの声は何だったの? ……くん……くんとか言ってたけど?」


 「うっ……」と姉はワタシから気まずそうに目線を逸らしてきた。

 そして目をパチクリパチクリ。どうやらかなり動揺してる様子だ。


 ワタシがこちょこちょに弱いことを姉が知っているように、ワタシだって姉が動揺してる姿ぐらいは分かるのだ。


 「教えて。教えてくれないと今度から姉さんのこと、嫌いになるかも」


 「そ、それはないよー。紗夜ちゃん……流石にそれはやりすぎだよ……」


 姉にはこのぐらいの態度を貫き通すのが一番良いだろう。まぁ、元々このぐらいのことで姉のことを嫌いになったりすることはないのだけど。


 「実は今日……ユウヤくんとおしゃべりができて嬉しかったの……だから少しだけ優越感に浸り、ベッドの上で枕をユウヤくんと見立てて……ギュッと抱きしめていた訳です……」


 姉だって、普通の乙女である。それは理解していた。でもこれほど、可愛らしい女の子だったとは……。正直、この話を聞いて、ワタシの顔の方が赤くなってしまった。


 「……引いた? お姉ちゃんがそんなことをしてると思って、引いちゃった?」


 「引いてないです。ただ姉さんも普通の女の子だと思って、安心しました」


 「それは良かった。でも、酷いなー。私だって普通の女の子だよー。心外だよー」


 プクッとハリセンボンのように口を膨らませた。……可愛い。


 「でも、普通の女の子は壁にペタペタと好きな男の子のポスターなどを貼りません! それにこれ、自作だし!! それにこれ、盗撮ですし!!」


 「紗夜ちゃんは分かってない。愛の前に、法律はないんだよ」


 ちょっとかっこいいことを言ってるつもりだけど、愛の前にだって確実に法律はある。


 「姉さん。これ一歩間違えれば、ただの犯罪ですからね」


 一応、妹として注意はしておいた。


 「だって、本気で好きなんだもん……それにクラスの女の子とかにも、好きな男性アイドルのポスターなどを部屋の壁に貼ってる人、結構いるらしいよー」


 「それはアイドルだからです。ユウヤくんはただの一般人ですから」


 「紗夜ちゃん、アイドルには『憧れの人』という意味もあってねぇー」


 また、姉の屁理屈が始まりそうなので、ワタシは話をここで遮ることにした。

 姉は流石、生徒会長と言われるほどの弁が立つ人だ。だから普通に戦ったら、負ける。


 「もう、良いですよ。勝手にしてください。ただ、本人に許可を取ってるんですか?」


 「本人に許可……?」


 「はい、許可です。真中くんにしっかりと確認を取らずに、壁に貼るって非常識ではないですか?」


 「う、ううぅ……」何も言い返せないようだ。


 姉はかなり真中裕也のことになると、弁が鈍る。


 「もう、分かりました。ただ、今後真中くんがこの家に来るとなると、姉さんの部屋を見てどのように思いますかねー?」


 「多分、愛されてると思って、喜ぶと思う!!」


 嬉しそうな表情で姉が言ってきた。なんだ……この笑顔は。無邪気な子供みたいだ。

 だから残念ながら、違うとは言い辛い。

 でも教えるべきだ。


 「違います。抱くのは恐怖だけです。姉さんの愛は重いのです。それに姉さん、ポリ袋に彼の髪の毛を採集しないでください!! 洗濯する時、ブラウスの中に入ってましたよ」


 そう言って、ワタシは空になったポリ袋を見せる。


 「あの……髪の毛は?」


 「捨てましたよ」


 「捨てたらダメだよー。アレは集めるの、結構大変なんだからー」


 「無理です。今後はあのようなことはやめてください」


 「うん。じゃあ、ユウヤくんのは諦める」


 「もしかして姉さん……ワタシの髪の毛も採集したり?」


 「うん、そうだよー。紗夜ちゃん、最近一緒に寝てくれないから寂しくて寂しくて。だからこっそりと紗夜ちゃんの枕にくっついてる髪の毛をポリ袋に集めて、紗夜ちゃんエネルギーを……」


 「姉さん、もう聞きたくないからやめてええぇぇぇぇー」

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