第32話 恩返し

 自宅へと帰宅。玄関前には体操座りをしている女の子が一人。彼女の横には大きなリュックサックがある。今後の生活に必要と思われるものを取ってきたのだろう。


 「東條さん。ごめん。待たせちゃったよね」


 声をかけてあげると、俯いていた顔を上げ、眼を擦った。

どうやら寝ていたのかもしれない。それと服も私服になっていた。

 薄ピンク色の大きめのパーカーと緑色のショートパンツ。シンプルながら、逆にそこが良いと思ってしまう。


 「あ、ユウヤくん」と寝ぼけたような声を出す。


 「ほらっ」と手を差し出すと、東條さんも俺の手を掴んで、起き上がる。


 「結構、待った?」


 「全然待ってないです。多分、十分ぐらいしか」


 「そっか。それならいいんだけど」


鍵穴に鍵を差し込み、ドアを開く。


 ***

 東條さんが手料理を作ってくれるということで俺は豚の生姜焼きをチョイスした。すると、彼女はわかりましたと言い残し、エプロン姿で台所へと向かう。

 あ、確認のためになるが、裸エプロンではない。


 そんな彼女を部屋からじっと見つめ、結婚とかしたらこんなふうになるんだろうなと思ってしまう。って、俺は何を考えているのか。


 でも東條さんって俺のことが好きなんだよな。


 もしも俺が東條さんと結婚したら……。


 などと今後の生活についてニヤニヤ考えていると、東條さんがそろそろ出来上がりますから食べる準備をしててくださいーと言われてしまった。


 東條さんが作ってくれた豚の生姜焼きは絶品だった。俺が美味しい美味しいと言って、もりもり食べる俺を見て、東條さんもニコニコしていた。

 もう、本当にその姿が可愛くて仕方がない。


 食後、食べ過ぎて疲れている俺に「お風呂はどうしますか?」と東條さんが話しかけてきた。


 「食べ過ぎたから先に東條さんが入ってもいいよ」と言うと、断じて彼女は先に入ろうとはしなかった。だから俺が先に入ることになった。


 湯船に浸かりたかったので、シャワーではなく、お風呂を沸かした。



 シャンプーで頭を洗っている時だった。脱衣所の方から布切れがスルスルと落ちていく音がした。それに女性と思わしき、シルエットが映る。

 そしてガラガラとお風呂場のドアが開き、ちょっとずつ近づいてきた。


 真正面には鏡があるが、曇っていて上手く見れない。それにシャンプーが目に入ってるせいか、目を開くことができなかった。


 「ユウヤくん。背中を流しにきました」


 耳元で囁かれる小さくて照れたような声はまさしく東條さんだ。


 「え?」と俺が反応すると、東條さんは「い、嫌でしたか?」と俺を伺うような言い方になる。



 「嫌ってわけじゃない。むしろ、嬉しいぐらい。でも、東條さんはそんなことをして、本当にいいのかなって」


 「いいよ。むしろ、それぐらいはしないと。だって、私は|ご主人様(ユウヤくん)だけのペットだもん。背中を洗うぐらいはして当然だよ」


 彼女に押し流され、俺は納得することにした。もう、どんな展開でもいいだろう。

こんなシーンがどこかのラブコメでも見たことがあった。その時は流石のラブコメ主人公でも少しは動揺してたが、少しどころの問題じゃない。


 「ゆ、ユウヤくん。その石鹸を取ってくれますか?」


 石鹸を取って、彼女へと渡す。でも石鹸だけじゃ、どうしようもんないと思うんだが。


 「ユウヤくん。ちょっとだけ待っててくださいね」


 ***


 東條姫乃は石鹸を自分の豊満な胸を利用して、泡を立てることにした。

 それは少しでもご主人様を喜ばせるためだ。

 谷間に入れた石鹸を両手で左右の胸を上手に動かす。石鹸はとても固かった。


 一分ぐらい、胸で泡を立てる。


 「では、ユウヤくん。背中、失礼します」


 姫乃は自分の身体をユウヤの身体に擦り寄せる。突起した先端部分が彼の背中に当たる度に電撃が走った。でも、自分でもとても気持ちが良かった。


 「そ、その東條さん。ちょっとこれはマズイ気がするんだけど」


 「大丈夫です。ユウヤくんはしっかりと気持ちよくなってください」


 小さな姫乃の可愛らしい喘ぎ声が漏れた。健気に熱心にご主人様を喜ばせようとする、彼女の計らいはユウヤの気持ちがしっかりと伝わった。


 その後、狭いながらも一緒の湯船に浸かることができた。それに背中を洗い流すことができた。

 それだけで姫乃は幸せになれた。少しでもあの時の恩返しがしたいと思っていたのだ。

 それが少しずつではあるが、しっかりと叶っている。彼が喜ぶことなら何だってする。



——だって、彼は私に明日を生きる意味を与えてくれたから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます