第31話 妹

 校門を出てすぐに、身長の低い女の子が身体をモジモジさせて佇んでいた。

 彼女は俺の妹である。と言っても、義妹なので血縁関係はない。

 親の再婚で新たな家族が増え、そして妹ができたのだ。


 「楓、こんなところでどうしたんだ?」


 「お兄ちゃんを待ってた」とボソリと呟いた。

 楓は綺麗な銀髪に碧眼の可愛らしい女の子だ。正直、依怙贔屓無しに、彼女は可愛いと思う。最近は少しずつ身体も成長してきたので、とても魅力的な女の子になった。


 「お兄ちゃん、楓に見惚れてる?」


 「そ、そんなことあるわけないだろ」


 「そっか。でもお兄ちゃんが求めるなら、楓はいつでもお兄ちゃんに全部を捧げる覚悟はできてるよ」


 「楓、お前は少し常識を知りなさい!」ピシリと頭を軽く叩く。


 「知ってるよ。義理の兄妹は結婚できる」


 そんな知識を何処から手に入れたのだろうか。困った妹である。


 「楓、常識的に兄と妹の結婚はありえない。わかったか? それに父さんや母さんにも迷惑になるだろ」


 「でも、楓。お兄ちゃん以外の男性に興味ないよ。だからお兄ちゃんが結婚してくれないと、一生私は結婚できないよ。そっちの方がお父さんやお母さんは困ると思うんだけど」


 はぁー。妹は口が達者である。


 「任せろ。お兄ちゃんがなんとかするから」


 「それってお兄ちゃんが結婚してくれるってこと?」


 「違う違う。俺が楓に合った男性を見つかるまで協力するってことだ」


 楓は口を尖らせながら不満を漏らした。


 「でもそんなことをしても無駄だよ。だって、本当に楓はお兄ちゃんのことだけが好きなんだもん」


 「あぁーはいはい」と適当に受け流す。


 そんな俺の態度が気に食わないのか、妹は俺の足を蹴ってきた。


 「イテテ」と別に痛くはなかったが、痛がってみせる。

 すると楓は少しだけ、心配した表情でこちらを見つめていた。


 「お兄ちゃんが悪いんだもん。楓は本気なのにぃー」


「あ、そういえば、楓は何か用があったんじゃないか?」


 「何か用が無いとお兄ちゃんに会いに来たらダメなの?」


 「そんなことはないけど……って、楓!? 外で俺にくっつくな」


 楓は腕を絡ませてきた。俺の腕にガッツリと胸が当たってきてるんだが。

 これはこれで嬉しい展開だとは思うが、妹の胸で欲情はできないかな。


 「お兄ちゃんパワーが無いと死んじゃうんだもんー」


 下駄箱でも同じようなことを言う人が居たが、もしかして俺ってそんな凄いエネルギーを持ってでもいるのだろうか。


 「クンクン」と楓は鼻をピクピクと動かす。


 そしてドスの効いた冷たい言葉を掛けてきた。


 「お兄ちゃんから変な匂いがいっぱいする……」


 「えっ?」


 「お兄ちゃんから柑橘系の甘い匂いがする。ねぇ、お兄ちゃん。これさ、どういうことなの?」と問い詰めてくるのだ。


 柑橘系ってことは多分、生徒会長のことだろう。


 ちょっと目に光が一切見えないんだが。まさにコスモブラック。

 

 「お兄ちゃん。楓が居るのに、浮気しているんですか?」

 首えりを力強く掴まれる。結構、楓って力が強いんだな。小柄な癖に。


 「浮気じゃないって」


 「じゃあ、これは誰の匂いですか?」


 「生徒会の手伝いをしてたんだ。だから悪かって」


 「そうですか。生徒会長さんの手伝いでしたか。それなら大丈夫です。安心です」

 にっこり笑顔を見せる楓。何か生徒会長と仲が良かったりするのだろうか。


 「楓って、真梨先輩と何故仲がいいんだよ?」


 「真梨先輩とは話のウマが合うんです。特に好きな男性が同じなので」


 楓は本当に嬉しそうだ。でも楓にも好きな男性がいたことに少しだけ安心した。

 それに生徒会長も好きな男性ってことは何かのアイドルなのかな。


 「そっか。それは良かったな。じゃあ、俺はもう帰るぞ。楓も寮生活頑張れよ」


 手を振ってそのまま帰ろうと思っていると、腕を掴まれてしまった。


 「待って。お兄ちゃん。話はまだこれからだよ」


 口調がやけに強かった。普段はもっと優しく甘えたような声なのに。


 「恵梨香さんから聞いたよ。お兄ちゃんが女性を家に連れ込んでるって」

 え、恵梨香のやつ。何を楓に言ってくれてんだよ。


 「違うぞ、お兄ちゃんはそんなことはやってないから安心しろ」


 「でも裸エプロンさせて、首輪までつけてると情報をもらったけど。それに今日はお兄ちゃんを側でずっと観察してたんだ。そしたら、ずっとその女がお兄ちゃんを付け回してた」


 たしかに本日は如実に東條さんは俺にベッタリくっついていた。


 「で、思い出したんだ。あの女、以前からずっとお兄ちゃんの家をウロウロしてたよ」


 「それが事実だとして、なぜ寮生であるお前がそれを知ってるんだ?」


 「そ、それはお兄ちゃんが心配で」


 「お兄ちゃんは楓が思っているよりもこの一年間で成長したから安心してくれ。それも楓が俺に家事を教えてくれたからだ」


 「お兄ちゃんは元々楓の自慢のお兄ちゃんです。やれば、なんでもできますし」と誇らしげだった。そんな姿が可愛らしい。


 「あ、それでその女とはどんな関係なの?」


 「どんな関係って、俺が一年生の頃に病院まで行ってたこと知ってるだろ?」


 「あぁー知ってるよ。お兄ちゃんが密会してたあの女のことだよね」


 「言い方に多少言い返したくなるが、まぁその通りだ。彼女の名前は東條姫乃って言うんだ。中等部でも知らない人はいないと思うが」


 「知ってる。あの生徒会長と並び立つほどに、綺麗で頭も良いって。でもどうして、その女がお兄ちゃんと楓の愛の巣にいるの?」


 いつから俺の家は二人の愛の巣になったのだろうか。


 「東條さんは家出したんだ。それで俺が匿ったわけだ」


 「家出……?」と訝しい表情に変わる楓。


 「それって、お兄ちゃん。ただ利用されてるだけだよ。その東條さんって、お兄ちゃんをただ弄んでいるだけだよ。だから騙されちゃダメだよ」


 「そんなふうには全く見えなかったけどな」


 「それが相手の思惑だよ。多分、後から高額な商品を買わないかって言われるはずだよ。それで用が済んだら、ポイっと捨てられるんだよ」


 「というか、お兄ちゃん。お兄ちゃんには楓がいる。だから、その東條さんっていう女は要らないでしょ? ねぇーお兄ちゃん? そうだよね?」


 楓は愛が重い。自分が一番愛されないと気が済まないタイプなのである。

 正直、わがまますぎて面倒だと思うところもあるが、普通にしているととても愛らしく女の子だ。だからこれと言って、問題視はしていない。


 「お兄ちゃん。どうして黙ってるの? ほら、早く言ってよ。楓が世界で一番好きって。ほら、早く。言ってよ」


 一向に楓は俺を離してくれそうにない。だからここは楓の指示に従うとしよう。


 「カエデガコノセカイデイチバンスキダゾ」


 「なんか、カトコトだね。でもこれで良いよ。既成事実ができたから」


 そういって、楓はにっこりと微笑んできた。


 って、既成事実とは?


 「楓。お前、何かやったのか?」


 「ジャジャーン」と楓はスマホを取り出す。画面にはRECの文字が表示されていた。

 どうやら楓は今までの会話を録音していたらしい。


 「今日の夜はお兄ちゃんの愛してるボイスを聞いて、寝よう。それに朝からはお兄ちゃん、モーニングコールを聞くし。アァー、もう本当にお兄ちゃん。大好きー!!」


 そういって、楓は俺に甘えてくる。はぁー仕方ない。

 多分、楓だって両親と会えないから寂しい気持ちがあるのだろう。

 ここは俺が両親の代わりに、楓にできることをしてあげるべきだ。


 「楓。今度からも何かあったら、すぐに俺に言うんだぞ」


 「うん!! お兄ちゃん、大好きー!!」


 楓が俺に飛びついてくる。本当に楓は元気な奴だ。


「それに楓はお兄ちゃんのそんな優しいところが好き。だから東條さんを家に匿ってあげたお兄ちゃんも好きかも。カッコいい。でもお兄ちゃん! 絶対に楓以外に発情したら、ダメだからね!」


 どうにか楓から東條さんに対する了承的なものを得た。(何故、妹にとやかく言われなければならないのかと思うけど)

 でもこれで一件落着である。後は家に帰るだけだ。

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