第30話 エネルギーチャージ

 「それでは家に帰るとでもするか」

 先生との談笑を終え、俺は家に帰ろうと靴箱の方へと向かう。


 そこには俺が良く知る人物が居た。


 「ま、真梨先輩……何をやってるんですか? こんなところで」


 真梨先輩は俺の革靴の匂いをクンカクンカと嗅いでいたのであった。


 その声にハッと表情を変え、慌ただしく色々な表情になる現生徒会長。


 「ちっ、違うんだ! これは誤解なんだ!」


 「まずは言い訳を聞きましょう。話はそれからです」


 「生徒会長として、生徒達の靴をしっかりとチェックしてただけだ」


 何をチェックするのだろうか。だが、それを訊ねるのは不毛な論議になりそうだ。

 生徒会長は弁がかなり立つ。だからどんな不利な状況でも勝利を掴むのである。


 「そうですか。それではその靴を返してください」


 真梨先輩は渋々俺に渡してくれた。一応、持ち主は俺なんだけどな。


 「あ、そうだ。ユウヤくん。キミは生徒会に入る気はないかな?」


 「先輩。またその話ですか。俺は入る気がないと何度も言ってるじゃないですか」


 俺たちの学校にある生徒会の仕組みは至ってシンプルなものだ。

まず生徒会長を選挙で決める。その後、生徒会長になった者が残りの生徒会メンバーを選ぶ。

 この流れで選ばれるため、基本的に生徒会メンバーは随時増えていくのである。

 但し、生徒会長に気に入られた者しかなれない。


 「キミはとても優秀だ。だからこそ、その力をもっと生かす必要があると私は考えている。だから私と一緒に生徒会で——」


 彼女の言葉にピシャリと覆い被せた。


 「無理です。基本的に俺はゆっくりしたいんです。だから生徒会なんて」


 「キミが望むのであれば、私は何だってするぞ。キミのために尽くすと約束しよう」


 「…………」

 突然の生徒会長からのお誘い。言葉が上手く出てこなかった。


「……私では不服か?」

 強張った目が俺を凝視してくる。


 「不服って……そんなことあるわけないじゃないですか。先輩はとても魅力的な女性だと思っています」


 「で、でも……」


 ここで言葉が途切れてしまう。先に出てくる言葉が見つからない。


 「まぁーいいさ。私はキミを諦めるつもりはない。だから覚悟しててくれ」


 「わかりました」と一言交え、俺はシューズを下駄箱の中に放り込む。


 「先輩、シューズの匂いを嗅ぐのはやめてくださいね。恥ずかしいので」


 「嗅いでなどおらん! これはエネルギーチャージだ!」


 「だからそれを嗅ぐって言うんですよ。あの、もしも嗅ぐって言うのなら、シューズを家に持って帰りますよ」


 「そ、それだけはダメだ! 私がエネルギー不足で死んでしまう」


 「はぁー」と俺は溜息を吐いて、真梨先輩の頭に手を置く。


 「先輩、これは特別ですよ。今日も生徒会長としてのお仕事頑張ってください」


 先輩の頭を撫でてあげると、本当に幸せそうな表情だった。

 あの普段はクールなイメージが強く、誰にも媚びない感じの人が俺にだけ、こんな表情を見せるとは。


 ちょっとだけ、胸にググッとくるものがあった。


 「これだけでは我慢ができない。すまない、ユウヤくん」と言いながら、先輩は俺に飛びついてきた。本当に生徒会長は破天荒な人である。


 (その後、二分間ぐらい生徒会長に抱きつかれてました。そして、「離れてください」と言っても、なかなか離してくれなかったです)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます