第27話 忘れ物

 七時限目。そわそわな態度を見せる如月がいた。何かあったのかと思っていると彼女は教科書を持ってきていなかったのだ。


 「如月。教科書忘れたんだろ?」と小声で喋りかける。


 如月が小さく首を動かした。


 「ほら、見せてやるから、机を動かせ」


 「如月。真中。お前らはコソコソと何をしている?」と先生から注意を受けてしまう。


 「わ、ワタシが——」


 「あ、すいません。先生。俺、教科書忘れてしまったんで、如月に見せて貰おうかと」


 「本当にお前はダメな奴だな……」と先生が哀れむように言った。


 それに合わせ、クラスのみんながどっと笑う。


 「ほら、如月。早く机をくっつけるぞ」


 ***


 真中がワタシを庇った?


 そんなはずあるわけないじゃない。あいつが。あいつが。こんなことをしてくれるはずがないわ。


 「おい。どうしたんだ? 如月。さっきからちょっとおかしいけど」


 「べ、別に何もないわよ……それにアナタには別に関係のないことでしょ」


 あぁーどうして、ワタシは冷たい態度を彼に取ってしまうのかしら。

 本当はありがとうと感謝の気持ちを伝えたいのに。それなのに、口が勝手に彼を拒絶してしまう。もう、本当にワタシのバカ!!


 「悪かったな。でも、良かったよ。いつもの如月でさ。もしかして、具合でも悪いのかなと思って心配したんだぞ」


 真中がワタシを心配? そ、そんなことデマカセよ。


 でも東條さんは真中のことを誤解してると言っていた。


 それにあの姉さんだって真中くんはそんな人ではないと言っていたし。


 もう、本当に分からない。


 でも……心配されて嬉しかったかも。

 横を見ると真中がワタシの方を不思議そうに見つめていた。

 何だか、物凄く股の方がヒクヒクした。それに胸がギュッと締め付けられる痛みがした。


 何よ、この痛み。この感じたことのない胸の中でぽっかりと空いた穴は。


 それにワタシ、体育の授業の時に頑張ってる真中を見て、素直にカッコいいと思ってしまった。


 「……その、ありがと。心配してくれて……」


 ***


 如月が俺に感謝の言葉を述べた。述べやがった。あの女が。


 普段はクールでいつも俺を罵倒してくるような奴が。


 恥ずかしそうに耳まで真っ赤にして、謝ってきた。


 それほど、屈辱的だったのだろうか。

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