第22話 東條さんと如月ちゃん その2

(***で視点変更が起こります。東條さん→如月ちゃん→東條さん→如月ちゃん)



 「ありがとう。本当にありがとう」


 東條姫乃は心の底から感謝の意を述べた。


 「ここではちょっと言いにくい話だから。場所を変えてもいいかな?」


 「そうね。ワタシの方こそ、ごめんなさい。こんな人が多い場所でそんな話は出来ないわよね」

 こうして、二人は場所を変えるために学食を出た。


 ***

 東條姫乃に連れてこられたのは四階の東階段隣にある女子トイレだった。

 ここは学校で誰も使わないトイレとして有名である。

 何故なら幽霊目撃情報があるからだ。


 だからこそ、何故こんな場所に自分は連れてこられたのだろうかと如月は思った。


何より、何故ワタシはこんな個室に女の子と入っているのだ。


 個室は女の子二人が入っても少しだけスペースが余るほどに大きかった。


 正直、何故自分はこんな場所に連れてこられたのか、全く分からなかった。

 それほど、誰にも知られたくなかったのだろうか。

 ここは人気(ひとけ)が少ないのでたしかに安心して喋れるとは思うが。


 「その……如月ちゃん」


 「なぁ、何?」


 頰をほんのりと赫らめる東條姫乃を改めて可愛いと思ってしまう。

 もしも自分が男の子ならば、絶対に彼女に恋をしてたと思う。


 「絶対に、絶対に……誰にも言わないって約束してくれる?」


 やはり、それほど言いにくいことなのだろう。ここまで連れてきたのだ。

 それはそうだ。少しでも彼女を安心させてあげたい。

 絶対にあの男のせいだ。あの忌々しい男のせいだ。


 ワタシの姉の心を奪っ——と、それはどうでもいい。


 アイツは敵だ。ワタシの完全な敵なのだ。

 考えるだけでムカムカしてきた。


 殴りたい、あのニヤケ顔。


 「黙ってるけど、誰かに口外するつもり……?」

 目元に水滴が溜まっていく。東條さんってもっとクールなイメージがあったのに。


 こんな可愛い女の子を泣かせて絶対に許さないんだから。


 「そんなつもりはないわ。いつもあなたの隣に寄り添う学級委員よ。楽しみも苦しみも一緒に分かち合う。それがワタシの信念なの。だから安心して!」


 「ありがとう。如月ちゃん……」と目元をウルウルさせていく。


 「それで何? 何があったの?」


 「実は……ワタシ……ノーパンなんです!!」

 顔を真っ赤に染めて、彼女は少しだけ大きな声で叫んだ。

 トイレだということもあり、反芻する。


 ——ノーパン?

 ——ノーパン?

 ——ノーパン? どういうことなの? もしかして、あの階段であの男は……女の子の大切なところを見ようとしてたわけね。それにノーパンにさせられたのも、実はあの男が東條さんの弱みを握って、脅迫したに違いないわ。

 

 もう、本当に最低!? 最低だわ!?


 如月の思考回路は完全にあの男に関する怒りで覆い尽くしていく。

 

 「それって、全部。あの男のせいなのね!」


 ***


 「あの男?」と小首を傾げてしまう。


 「そう! あの男よ! あの忌々しいワタシの隣に座る真中よ。真中!」


 たしかに元を辿れば、ユウヤくんがビチョビチョにしたせいだ。


 「はい。ユウヤくんのせいです」


 「やっぱりそうなのね! もう、ほんっと最低! アイツは完全に女子の敵ね。敵! これはワタシの方からも絶対に言うから。安心して頂戴!?」


 と、ここで紗夜は何かを思い出したかのように口を開いた。


 「それで、現在。パンツはどうしたの?」


 パンツは多分ユウヤくんの家に干したままだ。


 「ユウヤくんの家にあります」


 「あのー男っつ! こんないたいけな女の子にまで手をかけるなんて。もう、本当にありえない!」


 「ワタシにも非があります。油断していました。それに抵抗もできずにあっという間にビチョビチョにされて……」


 私がお風呂に入ってる時に突然襲うなんて、本当にご主人様は強引です!


 「でも安心して大丈夫! ワタシは東條さん! あなたの味方だから」

 私の肩にそっと手を置いてくれる如月ちゃん。

 本当に優しい人だ。


 「あ、ありがとう。如月ちゃん」と私は如月ちゃんに抱きついてしまった。


 ***


 東條さんに突然抱きつかれてしまった。なに! なぜこんな良い匂いがするの!

 同じ人間なのに! なぜこんな良い匂いが!?


 というか、東條さんの胸って圧迫感があるな。この胸に顔を埋めてしまいたいという自分がいる。

 だ、ダメよ。如月紗夜!? ワタシは学級委員なんだから!

 それにそんな真似をしたら、あの男と一緒よ。


「如月ちゃんって本当に頼り甲斐のあって、本当にかっこいい。私ももっと如月ちゃんのようになれたらなぁー」


 ワタシはあなたのような豊満な胸が欲しいわ。と、言い返す事は出来ない。

 それに褒められるのは素直に嬉しい。


 「そんなことはないわよ。ワタシがやってることは姉(ねえ)様の真似事に過ぎないから」


 「そ、そんなことないよ!? ワタシは如月ちゃん、とっても頑張ってると思うよ」


 「東條さん……」

 今までこんな気持ちになったのは初めてである。どんな人からも姉と比べられて生きてきた。だからこれからもそうだと思っていた。


 でも違った。ワタシが頑張ってるところを見ている人がいる。

 見ていた人がいた。それだけでワタシは報われた気がした。


 「あ、ありがとう」ぶっきらぼうに答えてしまう。


 ワタシは褒められるのに慣れていないのだ。

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