第18話 恋という名の病

 トイレを終え、教室へ戻る。東條さんは自分の席に座り、両手で顔を隠してこちらをジーと見ていた。やはり意地悪しすぎたのかもと反省。


 「ねぇーアナタ。にやけ顔が気持ち悪いからこちらに向けないでくれるかしら?」

 如月が俺に対し、冷たい態度を取ってくる。もう慣れたから別に良いけどさ。


 「あのさ、俺は如月に何か悪いことでもしたか? ずっとそんな態度を取られる俺の身にもなってみろよ」


 とりあえず、日頃の鬱憤を彼女にぶつける。そうなのである。

 俺は彼女にこのような態度を取られるほどに親しいわけでも、親しくないわけでもない本当に中途半端な関係性なのである。

 それに同じクラスになったのも、これで初めてなのに。それにまだ二年生になってから、二ヶ月ぐらいしか経っていないのに。


 「なぜ? それをワタシが教えなければならないのかしら?」と鼻をフンっと鳴らし、彼女は外方を向きやがる。なんだよ、その態度。


 このやろーという気持ちが芽生えるが、どうにか押しとどめる。


 それに俺には後ろから電波を放ってくる女の子の相手で精一杯なのだ。


 「マスター! マスター!」


 「どうした? 水無月」


 「今日は一段と胸が痛い」


 水無月レイナは俺と出会った当初から、胸が痛くなる病を患っている。

 話によれば、突然痛くなるらしい。本当に困った病気だと思う。

 それに病院を回ってみたが、原因不明だと言う。

 でもお医者さんは「それは病気じゃないから安心して良い」と諭してくれたみたいで、現在は病院には行ってはいない。


 「特にマスターがあの忌々しい東條と楽しく喋っているのを見ると、さらに胸が痛くなる」と言いながら、愛用の銃を磨いていた。(可愛そうだったので、没収していた物を返しておいた。もしも返さなかったら、うるさいし、椅子をバンバン蹴ってくるし、それにマスターの二つ名を皆に晒すとまで脅迫されたのだ)


 「おい、それを人には向けるな。危ないからな」


 「ふ、それは当然。これは魔力が込められた銃弾が飛び出るように改造している」などと法螺(ホラ)を吹き始め、色々と蘊蓄(うんちく)を織り交ぜた銃についての話を聞かされた。

昔は俺も色々と調べていたつもりだったが、彼女の方が何枚か上手だったようで、所々分からないところがあった。


 「それよりも、その銃を東條さんには向けるな。いいな」と忠告する。


 「むむぅーマスターはあの女の味方なの!?」と椅子から身体を乗り出して、問い詰めてきた。

 顔が近い近い。もう、本当にやめてくれ。純情な男子高生の心を弄ばないで欲しい。

 それも無意識にやるのやめて。こちらもやめろとか言ったら、意識してると勘違いされて変な空気になっちゃうから。


 理由は知らないが、自分よりも目立つ東條さんに対抗意識を持っているらしい。

 確かに東條さんってこのクラスでも別格の愛くるしさを持っているからな。

 それに去年は学級委員を務めていたんだよね。で、それを何回か手伝ったことがあった。

 まぁ、その影響で席替え不正疑惑があるんだけどね。(東條さんが学級委員という立場を利用して俺と隣の席にしたこと)


 「あ、また胸が痛くなってきた。でもこの痛みは何だか凄く心の中が満たされる……」と彼女は嬉しそうに微笑んだ。


 そして、急激に顔色をハッと変える。


 「もしや、これは覚醒の時が近いということか!? もしくはカタストロフィの日がもうすぐそばにまで来ている!」などと言いながら、窓側の方へ行ってしまった。


 「ねぇ、アナタ。そろそろ、あの子に本当のことを教えた方がいいんじゃないの?」


 如月が俺に喋りかけてきた。彼女から普通に喋りかけてくることは珍しい。

 如月もレナがどんな病を患っているのか分かるらしい。

 実は俺もレナが患っているのが、恋という名の病であることを知っている。

 だが、それを伝える必要は無いと考えている。


 「教えたところで本人が自覚なしだから無理だよ。それにアイツが俺に向けているのは好意であることは間違ってないが、それはあくまでも恩義や憧れみたいなものだから」


 「そ、アナタがそれでいいと言うのなら、ワタシは別に止めないわ」


 如月はそのまま俺を知らんぷりをして、次の授業の準備を始めた。

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