第11話 修羅場

 「どうしてこんなところに東條さんが居るの……?」

 恵梨香は驚きを隠すことができず、声がもたついていた。


 だが、俺も東條さんも口を開くことができない。

 沈黙が続き、恵梨香が痺れを切らして、俺に詰め寄ってくる。


「ねぇ、これってどういうことなの?」と恵梨香が睨みつけてくる。


 「違うんだ。これは成り行きというか」

 手をあたふたさせながら、とりあえず誤魔化そうとしてみた。

 けれど、無意味に終わってしまう。


 「何が成り行きよ! それに東條さんも東條さんよ。どうして服を着てないのよ! それに下着も身につけてないし!」


 恵梨香は顔を真っ赤にさせて、声を荒げた。多分、自分が東條さんと同じ立場ならと思っているのだろう。


 「……私のパンツは昨晩ユウヤくんにグチョグチョにされたから……まだ乾いてなくて」としょんぼりし、困惑した表情で東條さんが口を開いた。


 あのね、東條さん。言っていることは正しいと思うんだ。

 だけど、その言い方ってちょっと如何わしく聞こえると思うんだ。

 だからさ、誤解を招く言い方はやめようね。


 あくまでも、俺がうっかり下着を洗濯機に入れて、洗ってしまっただけなんだけどな。


 「……はぁ!? も、もしかして……」と急激にかぁーと顔が赤くなっていく。恥じらっているようだ。でも目付きはさらに鋭くなる。


 「東條さん。……そんなことされるのって、初めてだったの?」と訝しい表情で訊ねる。


 「え、恵梨香。お、お前は何か大きな勘違いを……」と言葉をかけてみた。


 だが、「ゆ、ユウくんは黙ってて!」とピシリと逆鱗に触れてしまった。


 気持ちがシュンとなり、心の中でごめんなさいと呟いてしまう。


 「……それはもちろん初めてです! あんな大胆な行動をされるとは思っていなかったので……」


 続けるように東條さんは口を開く。


「あぁ、でも実は私も自宅では結構やってます! 大人になったら、やはりそういうことって結構重要だと思うんです。将来的に結婚して、いざやろうと思ってもなかなかできなかったら、男性も幻滅すると思うんです!」


 東條さんはあくまでも洗濯の話をしている。


 大人になれば、自立して暮らすことになるから洗濯の重要性を語っているだけなのだ。


 だが、恵梨香は違う。完全に変な方向(パンツぐちょぐちょ→お●にー的な何か)に考えてしまっている。

 その影響を受けてか、放心状態である。多分驚き過ぎて、戸惑っているのだ。


 「あ、西沢さんもしますよね? そのくらい」と当然のように訊ねた。


 恵梨香に対抗心を燃やしているようだ。だが、そんな誘いに乗るほど、恵梨香は恥じらいが欠如しているわけではない。


 「ちょっと、東條さん。男子が居る前でそんな話は」と必死に止めようとする。

 それはそうだ。だって、恵梨香は洗濯の話だと思っていないのだから。


 「そっか。そうなんだぁー。もしかして、やったことないんだぁー。子供だなぁー」と東條さんがプププと小馬鹿にするように口を押さえながら、笑い出す。


 アレ、東條さんってこんなキャラだったっけ? もっと優しいイメージだったんだけど。


 だが、これが効果覿面(こうかてきめん)。


 「あ、あるわよぉ! わたしだって、時々そういう気持ちになることがあって」


 「たまに。たまになんだぁー」とニタニタ顔で余裕の表情を見せる東條さん。


 「そ、そういう! 東條さんはどのくらいの頻度でおっ、おおっなぁん。そのやってるのよ!」

 口をもごもごして、はっきり『お●にー』とは聞き取れなかった。


 でもこれで確信した。完全に恵梨香は『お』から始まるエッチなことだと勘違いしているようだ。正直、助け船を出したい気持ちもあるが、面白いのでそのまま見届けたいという気持ちの方が強い。


 ってか、恵梨香でもたまにそんなことをやってるんだ。

 って、落ち着け! 俺!? 落ち着くのだ。

 相手は幼馴染だぞ。昔から近くに居た女の子をそんな邪な目で見るなんて。


 「それはもう毎日だよ! 寝る前にしっかりとやってるよ。もう習慣みたいになってるからねー。でも雨の日とかは二回ぐらいはやるかなー」と得意げに話して、ウインクをしてくる東條さん。


 恵梨香は完全に呆気にとられてしまっている。


 「………………その、東條さんって意外とそんな人だったのね」と心底嫌な物を見たと言わんばかりに、部屋をとぼとぼ出て行く恵梨香。


 捨て台詞に「その自分の身体は大切にしなよ」と東條さんに残して行く。


 「その、恵梨香。おい、待てって」と呼びかけるが、完全に無視。

 それに追いかけようとしたら、そのまま「けだものぉー」と叫びながら、走って行ってしまった。

 キョトンとした表情で東條さんがじっとこちらを見つめ、首を傾げた。

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