第9話 朝の支度

 「はい。ユウヤくん! お口をアーンして下さい!?」


 東條さんが俺の方へお箸を向けて、食べさせようとしてくる。


 「ちょっと待った!? 東條さん!」


 クラスメイトの美少女が裸エプロン姿で、アーンしてくれるって、それは願ってもない話だけどさ。


 というか、電話一つで『クラスメイトの美少女が裸エプロン姿で家事をしてくれる』みたいなサービスがあると良いと思います!?


 「あ、もしかして。ユウヤくんって、お口移しが良かったですか?」と俺がご機嫌を損ねたと勘違いしてくれているのは良いんだけど……


 「そういう問題ではないんだよねー」


 テーブルには東條さんが朝早くから作ってくれた、朝ごはん(白米、味噌汁、玉子焼き、ウインナー)が並べられている。

(処分に手間がかかったので、お弁当は作れなかった。本当にごめんなさいと頭を下げられてしまった)


 「朝はまず時間がない!」


 そうなのだ。朝からイチャイチャしたい気持ちはあるけれど、時間がないのだ。


 「はい、忙しいと思います。特に『遅刻魔』の異名を持つ、ユウヤくんはなおさら朝に余裕がないと思いますね」と一人で納得してした。


 遅刻魔と呼ばれるのは仕方ないと思うが、面と向かって言われるのは情けなく思える。


 「そうでしょ?」


 「だからこそ、私がアーンするのでそれに応じて、口を開けば良いと思うんです! そうすれば、他の準備も一緒にできると思います!」と前のめりになって、訴えかけてくる。


 そうすると、必然的に大きくて柔らかそうな胸がお目見えしてるわけだ。

本人は男の子を落とすテクを無意識の内に発動している。これが自覚有りだとしたら、かなりの手練れである。


 「残念なことに俺はそんなに器用じゃないんだ。それに食事中に、他の準備をしたいとは思わないかな。折角、東條さんが作ってくれるのにさ。だからこそ、味わって食べたいからね」


 最終的に東條さんも渋々納得してくれて、アーンは夕飯時だけにすることになった。

 東條さんは料理に自信があると言っていたが、本当に美味しかった。その旨を伝えると満足げに笑ってくれた。


 その後、朝の支度を素早く終わらせる。昨晩の香水を確かめてみると、下の方に小さな文字で『異性を興奮させる力を持っています』と書かれていた。


 俺、この香水をどこで手に入れたかは分からないけど、効果は絶大なようだ。

 絶対に悪用しないようにしなければならない。


 裸エプロン姿で、茶碗を洗う東條さんを一瞥しながら俺は制服へと着替える。


 と、その時だった。『ピーンポーン』とチャイムが鳴るのである。


 茶碗を洗う東條さんの手が止まり、蛇口を捻って、玄関へと向かう。


 「ま、待って。東條さん!」と声を荒げ、玄関の方へと向かう。


 「ん?」と東條さんが振り返り、「何ですか? ユウヤくん」と俺に訊ね返してきた。


 「良いかい。東條さん。よく聞いてね。まずは服を着替えるんだ!」


 彼女はキョトンとした表情だったが、「ユウヤくんの命令なら、何でも聞きます」と言って部屋へと戻っていく。


 俺は彼女が完全に部屋に入ったのを確認してから、玄関のドアを開いた。


 そこに居たのは、何を隠そう俺の幼馴染である、西沢恵梨香(ニシザワエリカ)の姿があった。


 「あ、ユウくん。やっと出てきてくれた。寝てるのかなって心配になったんだぞ!」

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