第7話 ベッド

 ひょんなことから家出中のクラスメイトを拾ってきた(実際は家に押しかけ、ペットになりたいと懇願してきた)わけだが、同棲初日から同じベッドに寝るって本当に大丈夫なのだろうか。

 一応、俺と彼女の関係性は今までずっとクラスメイトであり、これからもずっとその関係性が維持されると思っていたのに。

 やばい……ちょっと興奮してきた。

 そんな気持ちを抑えるために、俺は冷蔵庫から水を取り出してゴクゴク。

 まずは体と心を落ち着かせなければ。トイレに行く振りをして、そのまま脱衣所でメンズ用香水なるものも付けてみた。

ちなみに、CMで『この香水を使えば、気になるあの子もイチコロDAZE!』と謳っていたので、以前購入したものである。

本当に効果があるのかも気になるところだ。

 では、夜の大運動会が繰り広げられる会場へといざ向かおう。

 部屋に入るなり、「遅いよー」と笑いながら不満を垂れられてしまった。

 正直、相手の態度がさっきと全然変わらないので、何だか自分だけが意識してるみたいでちょっと恥ずかしい。

 「その、本当に俺と一緒に寝てもいいの?」

 一応、これは確認のためだ。あとで、そんな気は一切無かったなどと言われれば、本当に俺の人生が台無しになるからね。

 「…………女の子は嫌いな男の子の家に上がらないし、それにベッドの中に潜ることも絶対にしないと思うよ」

 俺の目と数秒間合ったものの、東條さんは直ぐに赤面になって目をそらしてしまう。

 「ということは……東條さんは俺のことを好きってことなの……か?」

 まさか、あの東條さんが俺のことを好きだなんて。

 あの容姿端麗、品行方正で、さらには学業優秀の東條さんが俺のことを好き?

 「って、そんなことないよねー」

 はい。とても反省しています。こんなことを想像しただけで、バチが当たりそうだ。

 「むぅー。本当にユウヤくんって、鈍感だよねー」とほっぺを風船のように大きく膨らませる。

 「えっ? ってことは……東條さんは俺のことが本当に好きってことなの?」

 いくら鈍感だと言われても、流石に二回目を見逃すほど鈍感な男ではない。

 ふ、これも少年週刊誌で予習済みだ。ありがとう、ラブコメ作品達。

 「そうだよ。ずっと前から好きだったんだよ、ユウヤくんのこと。それなのに……」と今にも泣き出しそうになっているのか、蹲ってしまった。

 「だ、大丈夫?」と俺は彼女の背中をさすってあげることにした。

 「あのさ、ユウヤくん。一回、殴ってもいい?」

 東條さんがニコニコした笑顔を向けて、力の入った拳を向けてきた。

 「え?」

 「だって、あまりにもユウヤくんは鈍感すぎるんだもん!? 私、一年生の頃からずっと好きだったから、色々とアプローチしてたのに!? それなのに、全然気付いてくれないんだもん。あぁ、バレンタインデーの日のことを思い出したら、さらにイラってしてきたよ。ちょっと、殴らせてもらっていいかな?」

普段、怒らない人が怒ると怖いものだ。

でも、言われてみれば、東條さんっていつも俺の近くにいた気がする。それになんだかんだ言って、俺って一年生の時にバレンタインのチョコを東條さんから貰ったんだよね。

 あと、一年生の時とかは、席も結構な確率で隣同士になっていたし(二回に一回ペース)。

 何か闇を感じる気もするが、それは俺の勘違いだよね。

 「まぁまぁ、落ち着いて落ち着いて。こうして、今両思いだということがはっきりしてよかったよ」

「ユウヤくんと……両思い」

グヘヘとよだれを垂らしそうなほど、だらしない顔をする東條さん。

東條さんの意外な一面が見られて良かったと思うべきか。

 それとも理想が壊れたというべきか。でも世の中、そんな完璧な女の子っていないよね。

 その後、俺たちは何事も無かったかのように、ベッドの中へと二人仲良く入った。

「もう切るよ」「うん」みたいなカップルっぽい会話(厳密には俺と東條さんはカップルではないけど)を交え、明かりを暗くした。

 その瞬間、俺の背中を柔らかい感触が襲った。彼女の胸である。

 あまりの柔らかさに驚いてしまう。それに首元の方から細い手が伸びてきて、がっしり掴まれてしまう。

 「ちょっ、東條さん。な、何をやってるのさ!」と慌てふためく俺。

 だが、彼女は手を緩めることはしない。さらにがっしりと掴んでくる。

 もう俺を離さないようにしているのだ。

 「ん? 何って、パイポジを整えてるだけだけど」と余裕な表情を見せる。

 「えっ? パイポジ?」と訊き返す。

 「そうだよ。パイポジ」

 そういって、東條さんは胸をグリグリと俺の背中に押し付けてくる。

 薄手のシャツということもあり、先端部分の感触があった。

 「って、東條さんは今ノーブラじゃないか!?」

 「そうだよ。本当、ユウヤくんって、鈍感だなぁー。誘ってるんだよ」

 東條さんが俺を強く抱きしめ、さらに胸が押し付けられる。

普段の東條さんとは全く違う。何か怪しい。

 も、もしや。あのさっき使った香水が原因なのか!?

 気になるあの子もイチコロとか書いてあったし、もしかして何か異性を興奮させる危険な匂いなのかもしれない。

 「あ、あの。東條さん。何故、俺の上に跨っているんですかね?」

 一応静止させようとするが、彼女の行動はさらに過激になっていく。

「これもご奉仕だよ」

明らかに常軌を逸するようなうっとりした目で、俺の下半身があるところ辺りに腰を落ち着かせていた。

 おまけに……。

「なんだか、暑くなってきた」と言って、東條さんが上着を脱ぎ始める。

 彼女が服を脱ぎ脱ぎしようとすると、彼女の股が俺の下半身にモロに当たり、ちょっとイケナイ気持ちになってきてしまう。

 「あの。東條さん。落ち着いて。ねぇ、落ち着いて」と俺は彼女を宥めようとするが、理性を完全に失ったかのように彼女は離れてはくれなかった。

 それに彼女は上着を脱ぎ捨て、

 「えへへ。私―ユウヤくんのこと、だーいすき♡」と満面の笑みを見せた。

 その言葉を最後に、彼女は電池の切れたおもちゃみたいにボフッと倒れてきて、そのまま動かなくなってしまう。

つまりは俺の上に彼女の身体がそのまま乗っている状況なのである。

それも上は全く着てないので、じかに胸が俺に当たっているのだ。

 俺の身体を少しだけ動かす。

 すると胸の先端が当たり、「んっ」と甘い吐息を吐いた。

 そして、足を俺の身体に絡めてきた。もう、身動きが取れない。

 なんだ!? このラブコメらしい状況は!?

 彼女はぬいぐるみを抱いて、寝ていると言っていたが、普通のぬいぐるみなら、多分原型を留めていないと思える。それぐらい、東條さんは見た目の割に力が強い。

結局、最終的に眠れたのは3時過ぎだった。


翌朝。眩しい日差しが俺を襲ってくる。でもその光が清々しかった。

 「ユウヤくーん。朝ですよー」と肩を揺さぶられる。

 この声は東條さんの声だ。でもどうして俺の家に?

 って、そうか。俺、東條さんと一緒に住むことになったんだよね。

 「早く起きないと遅刻しちゃいますよー」とさらに声をかけられる。

 それでも一向に起きない俺に最終手段と東條さんは俺の瞼を無理やり開いてきた。


 「お、き、て、く、だ、さ、い」と彼女の口がゆっくりと大きく動いているのがぼやけたままでも分かった。

 重い瞼を無理矢理開き、今日も一日頑張るかと気合いを入れる。

 と、その時、俺は初めて東條さんの姿に気づき、動揺してしまった。

 何故なら、彼女は裸エプロン姿だったのだ。

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