第6話 嘘つきくん

 一緒に寝て欲しいだと!? それに、俺を抱き枕のようにして、寝たいという。それってつまりは一緒のベッドで寝ると言うことだよね。

 そんなふうに悩む俺を片目に、東條さんは俺の隣にちょこんと座り、着ている服の匂いを嗅いでいた。つまりは俺の服を絶賛堪能中ということである。

 一応洗濯しているので臭わないはずだが、安心はできない。

『ユウヤくんって、結構汗臭いんだね』とか言われたら、俺はもう立ち直れそうに無い。

多分、そんなことはないと思うけど。

 「あ、その、東條さん」

 まずは事情聴取が必要だ。

 彼女は貸していた上着を伸ばして、自分の顔の方へ持っていく。当然のように、腹の方は捲れてしまい、とても引き締まったお腹が見えた。さらに、顔の方まで一杯に上げているので、豊満な胸が一部分だが見えた。

 とても柔らかそうで、尚且つ物凄く大きかった。

 もしかして、これって新手のお誘いなのか。

 「ユウヤくんの匂いだぁー」と幸せそうに微笑む彼女を見て、もしかして匂いフェチなのかなとか思ってしまう。それと臭いと言われないで良かったと一安心。

 「ねぇ、東條さん」ともう一度、声をかける。

 だが、完全に無視された。おまけに東條さんは頬をプクッと膨らませて、威嚇を示す。

 もしかして、反抗期!?

 「どうしたの? そんなに怒ったような顔をして」

 「怒ってるんです!」と言われて、プイっと顔を反らせられる。

 「良いから教えてごらん」と優しく声をかける。

 すると、子猫のような瞳でこちらをじっと覗き込むように見てきた。

 でも俺と目線を合わせ続けるのが、恥ずかしくなったのか彼女はさっと目線を逸らす。

 「ユウヤくんが悪いんです……」とポツリと呟かれた。

 俺が悪い? もしかして、俺。また何かやっちゃいました?

 「ユウヤくんは嘘付きさんです」と指摘を受ける。

 「う、嘘付き……さん?」と訊ねかえす。

 「は、はい。嘘付きさんです!」

 嘘など、俺は吐いた記憶は無いんだけどな。

 「ごめん。気付かない内に傷付けてたみたいだね。本当、ごめん。東條さん」

 男から素直に謝る。大抵の男女関係トラブルは、男性から謝れば、スンナリと物事は綺麗に治るものだ。

 だから、俺は頭を下げることに専念する。これでも無理なら、必殺『DOGEZA』を使うしかないが、この出番はなさそうだ。

 「また、言った……」と小さく呟き、子供のように拗ねる。

 「それってわざとやっているんですか、ユウヤくん!」と顔を近づけられる。

 近い、近い。彼女の大きな瞳に俺の全てを吸い込まれそうになる。

 それにしてもまつ毛は長いし、ぱっちり二重だし。それに肌もきめ細かいし。

 「本当、東條さんって可愛いよな」うっかり、心の声を漏らしてしまっていた。

 俺は何を言っているのだ。こんな状況に。彼女は怒っているのだぞ。

 と、思い、少しだけ、東條さんの方を見てみると耳まで完全に真っ赤にさせていた。それに膝の上に置いた自分の手をじっと見つめている。

これって、完全に怒ったということなのかな。

怒った時とかって、熱を帯びるし。

 「そ、その……今のはちょっとした間違いでして……」

 わざとらしく、釈明を入れる。だが、明らかに不自然すぎる。

 「えっ!? 間違いなの? 私って、そんなに可愛くないかな?」と瞼に雫を寄せる姿があったので、必死に「違う違う」ともう一度弁明。

 「その、東條さんが可愛いというのは事実で……」

 あ、もう俺は何を言っているのだ。これって、ある意味もう告白じゃないか。

 「その何と言いますか、内に秘めた心の声がうっかり出てしまったと言いますか」

 「…………それって、それって。私のこと以前から可愛いと思ってたってこと?」

 何故、純情な男子高生に追い討ちをかけるようなことを言ってくるのだ。

 これではもう頷くしかないじゃないか。

 「はい。もう、その仰る通りです。以前から可愛いなと思ってました」

 何を俺は言わせられているのだ。もう、何だよ。この羞恥プレイは。

 多分、いま完全に顔を真っ赤にしてると思う。

 は、恥ずかしい。

 「そうだったんだ……実は、私もずっと前からカッコイイと思ってたよ」

 そう言って、彼女はベッドの中に潜り込んで行く。

 「えっ? ちょっと待って」と俺が言うが、彼女ははみかむ程度で何も言ってこなかった。

 「あの、さっきの嘘付きって言ったのは?」

「もうそれはどうでもいいのー。もう、気持ちは十分に伝わってきたからー」とふふふっと幸せそうに笑う東條さんを見ていると、もうその話は良いかと思えてきた。

(この部分の嘘付きとは、『姫乃』と名前を呼んでいないこと)

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