第5話 同棲生活

 パンツを貸すという提案を見事に拒否されてしまい、脱衣所から部屋へと戻る。そこで俺はタンスの上に置いた写真立てに目が奪われた。

 「か、母さん……」

 何度見ても美しいと思う。その朗らかな笑顔に父さんが心を奪われたのがよく分かる。

 「ユウヤくんー。とっても気持ちが良かったですー」と幸せそうな表情を浮かべながら、東條さんがお風呂から上がってきた。

 俺は慌てて写真立てをタンスの中へと隠した。

 慌ただしい行動を取った俺に東條さんが不思議そうな表情を浮かべながら、距離を詰めてきた。

 これは浮気調査と名して、詰め寄ってくる女性に似たようなものを感じる。

 「何をしてたんですか?」

 「何もないよ」と優しく答え、ベッドへと向かった。

 「むうぅー」と東條さんは唇を尖らせる程度でとやかく何かを言うことはない。

 それにしても普段俺が着ている服を女の子が着ているのを見ると新鮮な気持ちになる。

 サイズが若干大きい気もするが、別に大丈夫だろう。というか、お風呂上がりの色気が凄い。

 もしかして女の子はパンツやブラを着用してないと、色気がググッと上がるのだろうか。

 ダメだダメだ。彼女がノーブラ、ノーパンなんて、考えるのは絶対にダメだ。

 「ん? どうかしましたか?」と尋ねられ、特に何もないと言って誤魔化した。

 「それじゃあ、ちょっとこっちに来て」

 俺はベッドの方に来るようにと指示を出す。別にやましい意味はない。

 だが、東條さんは何か俺が悪たくみをしていると勘違いして、怪しんでいる。

 それにそわそわしており、落ち着かない様子だ。

 俺が無害であることを教えるために、手を大きく上げる。

 すると、彼女は「キャァ」と可愛い声を出して、床に倒れてしまった。

 「だ、大丈夫?」と声を掛け、手を差し伸べる。

彼女が俺の手を握り返してきたので、そのまま引っ張り上げる。

 「俺は健全な男子であると同時に、一人の紳士であることを忘れないで」

 「だ、だって……お風呂に入る前に、お風呂場で気持ちを整理しててとか、深くは突っ込まないからとか言ってたから……」

「ん?」

彼女が言っている意味が上手く理解できず、首を傾げてしまう。

 「だ、だから。その襲われると思ったの!? 私の初めてがここで奪われるのかなって……」

大きな声をあげたものの、最終的には小さい声になってしまった。

目元を真っ赤にさせる彼女を見て、俺は自分の言動や彼女の行動を振り返る。

 合点が全て掌握できた。彼女はどうやら酷い勘違いをしていたらしい。

 「ちょっと、待ってくれ。東條さん、俺はそんな意味で言ったんじゃない。俺が聞きたかったのは、なぜ東條さんがこの家に来たのかだよ」

 続けるように俺は言葉を紡ぐ。

 「そのさ、東條さんにも色々と事情があると思うけど、俺だってこれから一緒に同居するわけだ。それなのに、事情も分からずにこのまま生活をするのはちょっとね」

 彼女は正気を失ったかのように、弱々しく言葉を吐いた。

 「家出したの」

 「家出?」

 「うん。家出。もう、家に居たくないと思って、出てきちゃった」

 やはり、シリアス的な家庭事情とやらがあるのだろう。

 ここは深く突っ込まない方が良いかもな。

 「そっか。でも家の人に連絡を入れないと、困ると思うよ」

 彼女は嫌がるかもしれないが、警察などに行方不明として連絡が入ってるかもしれない。

 そうなれば、一つの問題になってしまう。それに同級生、ましてや、男の家に居ると知られたら、ご両親が心配するに決まってる。

 だから俺は彼女を説得する義務がある。

 「もう、入れた」彼女はあっさりと答えた。あたかも当然のように。

 「え?」

 「今日からクラスメイトと同棲すると言ったら、了承を貰えちゃった」

 「えっーーーーーーーー!?」

 「そんなに驚くことではないと思うけど……」と逆に反応に困るみたいな雰囲気を出してこられた。

 でもこれってある意味、好都合なのでは?

 ご両親が認知済みで、同棲生活。これで一番の問題が解決だ。

 実際は元々、解決済みだったわけだけど、細かいことは気にするな。

 と、ここで彼女が口を押さえて、可愛らしくあくびをした。

 時計を見ると、既に午前1時になりそうだ。

 「じゃあ、寝よっか?」と声をかける。

 「う、うん」と東條さんは言って、ベットの方に歩み寄ってきた。

 え? え? この展開って、もしかして一緒に寝るパターンですか?

 「あの、実は私。ぬいぐるみが無いと、寝れないんだ。だから、今日だけで良いから、ユウヤくんを抱きしめて寝ても良いかな?」

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