シモーヌ編 踏破
新暦〇〇三六年六月十一日
平均時速十キロ程度とはいえ、人間と違って不眠不休で運転を続けることができるドーベルマンMPM五十九号機は、淡々と、ただ淡々と行程をこなしていく。
そして<移動電源>の方も、コーネリアス号のローバー並みの走破性は実現したはずなので、五十九号機の運転技術とも合わせて、一メートル程度の段差なら苦も無く乗り越えていく。正直、俺より運転が巧い。運転技術についてはドライツェンからのフィードバックで獲得したものだ。戦闘力では大きくドライツェンに後れを取るドーベルマンMPMではあるものの、この手の機体に大きな負担が掛からない技能についてはまあまあ近いレベルを達成してる。
とは言え、人間が乗ってたらかなり怖いだろうなとは思う。それこそ横転しそうなくらいに大きく車体を傾けて段差とかを乗り越えていくんだからな。
ただし、小型火力発電機を搭載している分、重量はかなりのものな上に重心も高く、車体のバランスそのものはローバーよりも悪い。その分だけ実際の走破性は下がっているだろう。それはちゃんと考慮に入れてルート選択は行っている。
登坂時も、コーネリアス号のローバーの方は、地面とのグリップさえしっかりしていれば四十五度の坂だって登れるが、さすがに移動電源の方は三十度くらいが限界だとみられている。小型火力発電機を搭載していない状態でなら理論上はローバーと同じく四十五度まで行けるはずだけどな。
さりとて、三十度の坂など、自動車に乗った状態で登ればもはや空しか見えず、体感としてはほぼ垂直の壁を上っているような感覚だと思う。俺も、自分のローバーでその程度の坂なら通ったことがある。特に俺のはブランゲッタ搭載型だから横転や転落の危険性はないとは言え、それでも怖い。かなり怖い。
なのに五十九号機とホビットMk-Ⅱは人間のように怯えたりせず恐れたりせず、ひたすら淡々と前進する。
だが、それでもなお、前にも後ろにも進めなくなることもあった。地面が想定以上にぬかるんでいてグリップできなかったんだ。そういう時には、五十九号機と二機のホビットMk-Ⅱは移動電源から下りて、ハンドウインチを木や岩にかけて脱出させる。この辺りも、もうそれこそどうしようもなくなったらアリアンで吊り下げるようにする予定ではあるが、可能な限り移動電源とロボットだけで踏破することを目指していく。これ自体、貴重なデータだ。
そんなこんなで、まだ二日目だというのに、五十九号機もホビットMk-Ⅱも泥まみれで、新品だった移動電源自体も、泥まみれの傷だらけでボッコボコになったのだった。
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