シモーヌ編 面倒な人間
新暦〇〇三六年五月二十七日
シオが保護されて二ヶ月が経過した。彼女の様子はおおむね安定していて、コーネリアス号での暮らしぶりも穏やかなもんだ。読み込んでも読み込んでも終わりのないデータに毎日触れて、満たされてるようだ。そして今では、ドーベルマンDK-aやドーベルマンMPMに採取してきてもらったコーネリアス号周辺の動植物のサンプルとデータを見比べて、自分でも確認してるらしい。
提示されたデータをただ鵜呑みにするんじゃなくて、自ら実地で検証するあたりがしっかりした<専門家>であることを物語ってると感じる。シモーヌも、自分が調べたものをシオが再度確認することについて、
「さすが私」
と誇らしげだった。
『私が調べたことが信用できないっての!?』
とかキレたりしない。
『科学ってのは再現性のことだ』
的なことを口にする専門家もいるそうだし、きちんと再検証が必要で、再検証してもちゃんと同じ結果が出ることで信頼度が高まっていくんだっていうのをわきまえてるんだろうな。
そしてそれを理解してないような<自称専門家>は、惑星探査チームのスタッフとしては選出されないということだ。
そんな調子でシオも徐々に今の自分を受け入れられていってるんだろう。彼女の傍には
「ヴァッ!」
としかしゃべれないが、これといって困ってもいないようだ。必要とあれば
一方、
人間の場合だとこういう時、ついつい僻んでしまったりということも有り得るからなあ。
僻んだところで別に問題が解決するわけでもないってのに、面倒な話だよ。
そんなことで今のシオに負担を掛けるとか、有り得ないしな。何のためにコーネリアス号で一人暮らししてもらってるんだ?ってことにもなりかねない。
ただその一方で、自分が一人だということを彼女が意識してしまった時には、どう対処するべきかを考えなきゃいけないな。元々はシモーヌと同じ人間だから、必ずしも、
『一人でいることが平気』
ってわけでもないのは分かってる。一人でいることは好きだが、
<周りにまったく誰もいないという孤独>
が好きってわけでもないんだ。
「面倒な人間だよね」
と彼女は自嘲するが、いやいや、
『<面倒じゃない人間>なんてむしろどこにいるんだ?』
って俺は思うよ。
俺なんか最高に面倒な人間だぞ?
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