シモーヌ編 そういう諸々

『この世は決して自分の思い通りになるわけじゃない』


この現実をきちんと理解していれば、人生ってのはだいたい何とかなると俺は実感したよ。こんな文明もない場所で生きてたってそれなりに楽しめるくらいにはな。


『自分の思い通りにはならない』中で、ほんの少しだけ自分にとっていいことがあればそれを喜べばいいじゃないか。俺の家族が幸せに生きていてくれるならそれだけで俺にとっては幸せなんだ。


でも同時に、死が常に隣り合わせで、あれこれと煩わしいことも多くて、そして何より、『自分もいつか死ぬ』という不幸がある世界であることもまぎれもない事実ではある。


シオにとっても、愛するレックスも瑠衣るいもいない、しかも自分と由来を同じくする人間がレックスじゃない男と結婚してその子供を宿してるとか、普通に考えたら悪夢だろ。だけどシオは、その現実と向き合う覚悟を決めてくれたんだ。面と向かって同じ場所で暮らしていくことは避けたとはいえ、それはあくまで、


『その現実を受け止められるようにするための距離を置く』


ための選択なんだと俺は思うし、


「かつての私ならそうすると思う」


とシモーヌも言ってくれた。そして実際にシオは、コーネリアス号へと帰り、


「おかえりなさいませ」


そう言って出迎えてくれた桜華おうかに、


「ただいま」


と笑顔を向けてくれたそうだ。


ちなみに、シモーヌやビアンカや久利生くりうが現れた時もそうしたように、念のため監視下に置かせてもらうことについては告げてある。しかし実際のその役目については、ビアンカと久利生くりうに頼むことにした。二人ならしっかりと役目を理解してくれるし、かつ、シオからしても俺やシモーヌに見られてると思うよりは気が楽だろう。


無論、彼女の様子については報告してもらうけどな。


「シオは、桜華おうかが掃除してくれた<秋嶋あきしまシモーヌの私室>に入りました。ここまでところ、顕著な問題の兆候は見られないですね」


「ありがとう。もし気になることがあればいつでも報告してもらったらいい。エレクシアもいるしな」


報告してくれたビアンカに俺はそう告げる。


さて、ここからが長いぞ。いくら研究者としての好奇心を刺激されたからといって、なにもかもをそれで割り切れるわけでもないのが人間ってもんだろう。俺とシモーヌのこと。透明な体になってしまった自分自身のこと。レックスや瑠衣るいに会えないこと。そういう諸々が、ホッと一息吐いた時にこそ一度にのしかかってくることもあると思う。


その辺りのサポートのためにも、桜華おうかを付けたんだ。そして高仁こうじんも、もう完成する。


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