シモーヌ編 選抜

新暦〇〇三六年三月二十六日




「ふむふむ、ほうほう……!」


自分の腹を映しているカメラの映像を見ながら、シモーヌは感嘆の声を上げていた。どうやら、小さな点としてだが胎児が確認できて、しかもそれが詳細に映し出されているようだ。


まあたぶん、ダメな人間にはとても見てられないものだとしても、シモーヌの場合は、生理的嫌悪感よりも学者として研究者として学術的好奇心の方が圧倒的に勝ってるってことだろうな。


彼女がそういう人であることも分かった上で俺はシモーヌを愛している。


正直、相手がどういう人間か分からないうちから結婚できる人間の感覚が理解できない。


普通に怖くないか? 相手の人間性とかが分からないのに一緒に暮らして、風呂とか睡眠とか無防備な姿を晒すなんて。


俺も昔はそこまで考えてなかったが、ひそかじんふくようを嫁として迎えた時、彼女達が俺を大切に思ってくれてるから一緒に暮らせたわけで。でないと普通に<猛獣>だぞ? ひそかはその中ではまだおとなしい部類だったとしても、<握力数百キロの野生の獣>であることは事実なわけで、加減してくれなきゃそれこそ首をへし折られててもおかしくなかったんだよな。


いくらエレクシアが止めてくれるのは分かってても怖いだろ。


しかも彼女らが俺に対して強い怒りの感情を抱いたらそれこそヤバかったし。


んでもって、俺がまだ地球人社会の中で生きてた頃でも、殺人事件は減ったと言ってもゼロじゃなかったし、加えてその事件の内容は、ほとんど家族同士の諍いや、恋愛感情のもつれからくる突発的なものだったそうだ。


で、一番多かったのが、不倫や浮気や精神的DVといったことに対する恨みだったりって感じだな。


不倫や浮気を平気でできるタイプとか、そういうことで強い恨みを抱いて寝てる間に包丁で刺してきたりとか、精神的DVをしてきたりとか、その復讐として殺そうとするとか、そういうタイプの人間かどうかも分からないうちに一緒に暮らし始めるというのが、今じゃものすごく怖いと感じる。


肉体的DVなんかはそれこそメイトギアでも家においておけば確実に止めてくれるし、喧嘩も仲裁してくれるが、突発的にっていうのはさすがに防ぎきれないこともあるそうだ。だからゼロにはならない。


その点、シモーヌは、<学者バカ>な面は確かにありつつも、少なくとも他者を敬い尊重することができるタイプの人間だぞ? それはビアンカや久利生くりうも同じだ。これは、以前にも何度か触れたように、宇宙船の中で何年も一緒に暮らして惑星探査の任務に就くという仕事柄、


『他者を敬い尊重する』


ことができる人間でないとトラブルの素になるからというのが一番の理由だな。そういう部分を重視して選抜されてる。


優秀なんてのは大前提。その上で人間性も慎重に審査されたわけだ。


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