玲編 まぎれもない証
新暦〇〇三六年三月五日
推定されていた予定日まではまだ少し時間があったが、どうやら
「ふーっ! ふーっ!」
険しい表情で荒い息をしながらも、
医務室に入ると、敢えてベッドにではなく、壁際の床にマットレスを敷き、そこにうずくまる。基本的に地球人のように分娩台で足を開いてという形では出産しない。多く見られるのは、座って木の幹などに抱き着いた状態で出産する<座位分娩>や、それこそ四足歩行の動物のような四つん這いの状態で出産する形だ。これはそれぞれが楽だと感じたり力が入りやすいそれで行うらしい。
なお、今回は俺は外で待つ。
加えて、出産そのもののサポートは、セシリアだ。この集落での医療面は、すっかり彼女におんぶにだっこだよ。
「私は、解剖だったらできるんだけどね」
シモーヌは苦笑いだ。
なので、完全にセシリアに任せて、俺は
「いよいよ、
などと語りかけつつ、
「なあ、
とも問い掛けてみる。無論、返事があるわけじゃないものの、まあ、<気分>だな。現実を自分自身の中に落とし込むための手順でもある。
『娘を亡くした』
っていう現実をな。
老化抑制処置のおかげで健康寿命が二百年を超えた地球人に比べてあまりにも短すぎる生涯ではあったものの、事故や病気や、ましてや事件に巻き込まれたというのではなく、ただ<寿命>をまっとうしたということだからか、俺自身、不思議と腑に落ちている感じはしてるんだ。
それに苦しんで死んだわけでもなかったみたいだしな。遺体にもそういう痕跡もなかったそうだし。
そしてそんな
ああ、なるほど。子や孫や子孫がいるというのは、そこに至る者達が確かに生きていたというまぎれもない証なんだよな。
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