前のエピソード――玲編　配置転換

しかし、五対一の猛攻を受けながらも、龍昇（りゅうしょう）は怯まない。

玖（きゅう）号機と拾弐（じゅうに）号機の攻撃を受けてぐらついたのを、自身の体を鋭く回転させることで持ち直す。それと同時に、玖（きゅう）号機に右回し蹴り。前二本の脚を上げて、＜左前脚＞のタイヤで玖（きゅう）号機がそれを受け止めると、弾かれた反動を活かしてそのまま間合いを詰めてきた拾弐（じゅうに）号機の右前脚によるキック（パンチ？）を右足で蹴り飛ばす。

するとそこに明（めい）が再びローキックで軸足になっていた龍昇（りゅうしょう）の左脚を掃う。こうして宙に浮いた龍昇（りゅうしょう）の体に玲（れい）が蹴りを叩き込む。

浮いたところを蹴られたためふっとんだ龍昇（りゅうしょう）だったが、空中にいる間に体勢を立て直し、追撃として繰り出された鋭（えい）の蹴りを右手で受け流した。

とは言え、玖（きゅう）号機と拾弐（じゅうに）号機も、着地の隙を狙って攻撃を繰り出す。なのに龍昇（りゅうしょう）は敢えて地面を踏みしめることで体を支えるのではなく、脱力してわざと体勢を崩してそれを避けてみせた。このため、しっかりと着地した状態を想定していた攻撃は空を切り、逆に玖（きゅう）号機の足が龍昇（りゅうしょう）の蹴りで掃われる。

ただもちろん、龍準（りゅうじゅん）との戦いでもそうだったように、ドーベルマンDK-aに前後左右の区別はない。体勢を崩されてもその体勢が瞬時に正位になるので、有効な攻撃にはならない。

「！？」

これにはさすがに龍昇（りゅうしょう）も驚いた様子だった。だがそれは隙には繋がらず、こちらも瞬時に切り替えてブレイクダンスのように両脚を大きく広げて体を回転させ、しかも攻撃してきた拾弐（じゅうに）号機の前脚を踏み台にして間合いを取り、体を起こす。

そこに飛び込んできた明（めい）の前蹴り。それを両腕を交差して受け止め、さらにその衝撃を利用して後ろに跳び、今度は木の幹を足場にして上へと跳び上がった。

そして別の木の幹を蹴って今度は玲（れい）に飛び掛かる。だがそれは、鋭（えい）の蹴りで阻まれた。

と同時に、玲（れい）もただ守られているだけでなく、体勢が崩れた龍昇（りゅうしょう）に蹴りを放つ。

それはまともに龍昇（りゅうしょう）の背中を捉えたが、やはり攻撃が軽くてダメージが通らないようだ。

なお、ここまでの間に玲（れい）の体には無数の擦過傷ができており、あちこちに血が滲んでいた。動き回った際に小枝などで付いた傷だった。やはりこういうところで、毛皮やマンティアンとしての＜天然の装甲＞を持たないのは、いろいろと不利ということだろう。さりとて今はそんなことに構ってられない。玲（れい）自身もアドレナリンが出まくっていて痛みなど感じていないだろうし。

なにより、こんな強敵を相手に隙を見せればその瞬間に死が訪れる。彼女の胎児のことも心配だったが、それどころじゃなかったのだった。