玲編 セシリアの帰還

新暦〇〇三五年九月三十日




れいに妊娠の兆候が見られます」


朝、エレクシアが開口一番、そう告げてきた。


「いよいよか……」


俺もそう呟く。実際、こうなることは覚悟もしていたし、そのためにセシリアを呼び戻す準備をしていたんだ。


で、ケインとイザベラとキャサリンについてはだいたい、本人達の傾向も掴めてきて、それに合わせた体制も出来上がってきたところで、セシリアに戻ってきてもらうことにする。


「ありがとう。セシリア。すごく助かった」


<空港>に向かうためのローバーに乗り込もうとしていたセシリアに、ビアンカと久利生くりうあかりとモニカが見送りに出てきてくれる。


「今度はれいのこと、よろしくね」


あかりの言葉に、


「はい。承知しております」


セシリアは丁寧に応えてくれる。ロボットらしい、お手本のような姿で。


こうしてローバーに乗り込んだ彼女は空港に向かい、今度はアリアンに乗り込む。


「よろしくお願いします」


ヘリのメインフレームの一部となったアリアンにそう告げて、


「任せて」


アリアンがそれに応えて、発進。


それから三十分ほどで彼女は、俺達の集落に帰ってきた。


「おかえり!」


「おかえりセシリア!」


まどかひなたが、河岸に降り立った彼女を迎えに行ったイレーネと共に戻ってきたセシリアに抱き付いて出迎える。


「お元気そうで何よりです。まどか様、ひなた様」


二人の真似をしてうららもセシリアに飛びついた。これにはさすがに一瞬ぐらつくが、エレクシア達要人警護仕様には遠く及ばなくても体重百二十キロ程度の人間でも楽々抱え上げるくらいのパワーは持つだけに、倒れてしまったりはしない。


うらら様もお元気そうで」


笑顔でセシリアは応えてくれた。それからひかりじゅんやシモーヌとも挨拶を交わし、その上で俺は早速、


「それじゃ、れいの妊娠・出産に向けての準備を進めたい。よろしく頼む」


と告げた。人間の場合だといささか大変な要望にも、


「お任せください」


ロボットであるセシリアは嫌な顔一つしない。そんな彼女にも、


「ありがとう」


労う姿勢を欠かさない。ロボットは人間に労ってもらえなくても気にしたりしないものの、


<やってもらって当たり前のように思えることに対しても敢えて労う姿勢を見せる親の姿>


を、子供達に対して<手本>として示すんだよ。それが必要なんだ。そしてそれこそが<躾>にもなる。


親の振る舞いを真似てくれるだけで子供が人として好ましい振る舞いをできるようにするのが一番確実で手っ取り早くて好ましい結果を得られるんだ。


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