玲編 玖号機と拾弐号機

運用データを蓄積し、ドーベルマンMPM用のパーツでアップデートを繰り返してきたドーベルマンDK-aは、製造時に比べて格段に性能が上がっている。以前はクローラーを装備していた脚も、今はドーベルマンMPMと同じくタイヤになっている。それを、ボクシングのグローブのように使い、前二本の脚で打撃を行うこともできるようになってるんだ。作業用のマニピュレータは華奢で、打撃には使えない代わりに。


ドーベルマンMPM四十二号機が、ばんの記録をしていた時に見せたのと同じようにな。


そして、まず拾弐じゅうに号機が若いマンティアンに肉薄する。


だが、


「なにっ!?」


後から間合いを詰めていたきゅう号機のカメラ映像に映った光景に、思わず声を上げる。


拾弐じゅうに号機が前二本の脚を高く掲げて、後ろ二本の脚だけで立ち上がってボクシングのように打撃を繰り出した瞬間、それを上半身を逸らして綺麗に躱して、同時に左脚を跳ね上げて逆に叩き付けてきたんだ。


その蹴りを、足の関節部に付けてある樹脂製のカバーで受け止めた拾弐じゅうに号機だったものの、カバーが「バキッ!」と音を立てて割れて、さらに態勢まで崩されてしまった。


何という威力。瞬間、


「こいつ、龍然りゅうぜんの力を受け継いでる……!」


確信してしまった。


しかし、拾弐じゅうに号機の方も負けてはいない。態勢は崩されたが、ロボットは人間とは違う。しかも、二腕四脚のドーベルマンDK-aは、体の向きや脚の区別がないんだ。左側に大きく態勢を崩されたのなら、左側の二脚を地面に着けて、右側二脚を掲げ、同じように立ち上がってみせる。この状態でも、全く同じパフォーマンスを発揮できる。


これがロボットの強みだ。人間とも他の動物とも違う体の使い方ができるんだ。そしてどんな態勢でも戸惑うこともない。


が、若いマンティアンの方も戸惑うことなく体を回転させ、今度は右の後ろ回し蹴りを繰り出してくる。


こいつはこいつでとんでもない身体能力だよ。


ただ、今の一合のデータが届くと、エレクシアが、


「確かに並のマンティアンよりは、めいよりは確実に強いですが、龍然りゅうぜんほどではありません。やはり完全には能力を受け継いでいるわけではありませんね」


との言葉に、


「ドーベルマンDK-aでも行けるか?」


俺は問い掛ける。それに対してもエレクシアは、


「対応が可能であると推測できます」


と応えてくれた。


もし完全に龍然りゅうぜんに匹敵する能力を持っているならドーベルマンDK-aでは力不足だろう。アリゼとドラゼの二体がかりでも攻めきれなかったんだからな。


戦闘用ではないアリゼでさえ、ドーベルマンDK-aを上回る運動性能は持ってるんだ。


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