玲編 住み分け

新暦〇〇三五年八月五日




実年齢だけで言えば、地球人の場合だとまだ<幼体こども>と言える年齢ではあるものの、マンティアンとして考えるのならばもう十分に<成体おとな>だと言えるれいは、えいつがった。


すでに繁殖可能な状態だしな。


とは言え、年齢差は結構なものだ。ただし、そんなものを気にするのは地球人くらいなもので、野生の動物にとっては関係なく、気にしないようだ。


こういうところにも地球人のいい加減さが垣間見える。


自然を引き合いに出して、


『子供を生み育てるのが当然』


『子供ができないから同性愛は異常』


とか言いながら、自然ではごく普通な、


『年齢差など気にしない』


『子供が老いた親の面倒を見ることはない』


ということについては無視するんだからな。


本当に自分に都合のいいように物事を解釈してるだけだとよく分かる。


もっとも、それを言ってる俺自身が地球人だから、物事を自分に都合よく解釈するってのは日常的にやってるだろう。だからこそ他者のしてることについても厳し過ぎないように心掛けてるだけだ。


れいに対してだって同じ。彼女が服を着るか着ないかは、彼女に任せる。どうせ誰も気にしてないしな。


ここに住んでない人間が気にしてたって関係ない。ここに住んでいない人間はそれこそ余所者だし何の実害もないわけで。


なお、えいの方も、どうやられいに押し切られる感じで番ったらしいものの、特に迷惑そうにしてるわけでもない。うららを受け入れなかったあらたと違い、そもそもれいを自分の子供のように見てたわけじゃないというのもあるだろうな。問題は見た目だけだったんだろうが、それもクリアしたか。


そのえいがよく狩りをする辺りは、彼にとっては実の弟にあたるせいの縄張りと隣接している。が、それについてはドーベルマンMPMを配したことでしっかりと区切りを付けられているから安心だと思う。


せいも、ドーベルマンMPMを警戒して侵入してはこない。


マンティアンとしては異質なえいと違ってせいは共食いさえ躊躇しない生粋のマンティアンだ。えいれいが遭遇すれば大変なことになりかねない。その点でもうまく住み分けできてると言えるかな。


ところで、えいせいと言えば、父親のかくが最近、明らかに衰えが見えてきていた。マンティアンをよく知らない人間から見ればほとんど違いが分からないとしても、ずっと見てきた俺達には分かってしまう。


「明らかに動きが鈍ってきてるね」


「ああ……年齢も年齢だからな……」


シモーヌとそう確認する。


かくは、少なく見積もってもめいよりも少し上だ。だからマンティアンとしてはすでに<高齢>になると思う。むしろここまで無事に来られたのが不思議なくらいだろう。


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