蛮編 第二戦

こうしてパルディアが死に、ヒト蛇ラミアはさらに密林の奥へと進む。その侵攻を止める手段がなかった。ドローンを差し向けて気を逸らそうとはするものの近付けば尻尾の一撃で撃墜され、離れてヒト蛇ラミアから見えなくなれば無視される。そもそも改めて作ったドローンはあくまで記録用で運動性は必ずしも高くない。俺が元々持ってた<マイクロドローン>はヒト蛇ラミアにとっては虫にしか見えないのか、そもそも進行方向にいなければ意識を向けることもしない。


まったく話にならないんだ。とは言え、野生の動物達は勝てるはずのない相手とは基本的に戦わない。とっとと逃げるから、運悪く射程内に捉えられたもの以外は早々に逃げてくれるけどな。


なのに、中にはそれができない奴も稀にいる。自分の縄張りに侵入してきた得体の知れない獣を相手に、


「ガアッツッ!!」


と牙を剥いたものがいた。ヒト蜘蛛アラクネだった。<人間のようにも見える部分>がまだ少年のようにも見える若々しい個体だった。雄か。


そのヒト蜘蛛アラクネについても、ばんと縄張りを接していることもあって一応は観察していた。確かに若く強い個体だ。そこの縄張りを持っていた老いた個体を退けて縄張りを奪い取ってみせた、まさに、


<新進気鋭の若者>


といった個体だっただろうな。しかし、だからこそ自身の強さに溺れていたのかもしれない。ヒト蛇ラミアを迎え撃とうとしてしまったんだ。


<歴戦の勇士>


とも言えるような個体でさえ撤退することを選ばせる相手に、無謀にも挑もうと。


「グアッッ!!」


「ゴアアーッッ!!」


自身の縄張りを荒らす得体の知れない怪物をヒト蜘蛛アラクネは威嚇し、自身の前に立ちはだかる邪魔者にヒト蛇ラミアは激高した。


ヒト蜘蛛アラクネvsヒト蛇ラミア、第二戦>


と言ったところだろうか。


さりとてこの若いヒト蜘蛛アラクネに勝ち目があるとは、見ててもそんな印象はまったくなかった。先の<老獪なヒト蜘蛛アラクネ>との戦いの様子を見てからだと余計に。


なのに……


なのに、その若いヒト蜘蛛アラクネは、自身に猛然と飛びかかってきたヒト蛇ラミアをひらりと躱し、同時に片側三本の脚ですさまじい蹴りを叩き込んだんだ。


一本だけでもヒト蛇ラミアを怯ませることさえあるそれを、三本同時にだ。ここまで確認されたことのない戦い方だ。


なんという格闘センス。身体能力。バランス感覚。


「ゴハアッッ!?」


さすがのヒト蛇ラミアでさえ、それまで出さなかった声を上げて木の幹に叩き付けられた。しかも若いヒト蜘蛛アラクネはその機会を逃さず、追撃を行う。太い木の幹に叩き付けられたヒト蛇ラミアにさらに三本の脚での蹴りを撃ち込んだんだ。


すると、太い木が幹の途中から折れ、ヒト蛇ラミアごと地面に落ちた。


もしかするとここまでの連戦でさらに疲労が溜まっていたのかもしれないが、それにしてもな。


そしてヒト蛇ラミアの体をよく見ると、それまで一本の紐のようになっていたはずの<食べたもの>の一部が、歪に体内に広がっているのが確認できる。


<消化器官>の一部が、衝撃で裂けてしまったみたいだな。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る