蛮編 透明なマンティアン

そんなヒト蜘蛛アラクネの幼体も気になるが、それ以上に気になる存在が記録されていた。それは、マンティアンだった。


が、本来ならマンティアンはばんがいる方の密林には生息していない。完全な住み分けが成立していたんだ。もっともそれは、多少何らかの偶然でそれぞれの生息域に紛れ込む個体がいても駆逐されてしまい、結果として住み分ける形になっているだけとも言えるだろうが。以前、何らかの事情でこちら側に来てしまったアサシン竜アサシンが、駿しゅんの群れに駆逐されたようにな。アサシン竜アサシンも、基本的にはばんがいる側にしか生息していないんだ。


で、それをまた裏付けるような事態が生じた。ばんの前に現れたマンティアンは、<透明な体>を持っていた。そう、例の<不定形生物>が変化したもののようだ。


しかし、ばんには<透明なマンティアン>のことが理解できなくて混乱していたようだ。が、少なくとも<敵>であることも悟ったらしい。そして敵であるなら、容赦はしない。


それだけだ。


幸い、ばんには非常に高性能な<流体センサー>がある。<透明な何か>が一瞬で移動して、彼の死角にあたるであろう位置から襲い掛かってきても確実にそれを捉え、対処できるんだ。


「!?」


ばんに遭遇した<透明なマンティアン>は。見えているはずのない位置からの攻撃にも完全に反応され、丸太のような脚が正確に自分目掛けて繰り出されたことに驚愕したようだな。


かろうじてその攻撃を躱し、距離を取る。それでも戦意は衰えず、


「ギッ!」


小さく声を上げながら、改めて死角から攻撃を仕掛ける。


「ガッ!」


ばんも、歯を剥き出しながらそちら目掛けて蹴りを繰り出すものの、<透明なマンティアン>はその蹴りを紙一重で躱してばんの本体側に鎌を突き立てようとした。なのに、届かない。ばんばんで相手の動きを完全に捉えており、それに合わせて身を躱したんだ。


その上、速度では負けていても、攻撃の<手数>なら負けない。体を移動させつつ、さらに蹴りを繰り出す。


改めてカウンターの形で蹴りを繰り出され、躱しきれないと悟った<透明なマンティアン>は体をひねることでその威力を受け流そうとした。


受け流そうとしたのだが、受け流しきれずにまるで独楽のように体が回転しつつ弾き飛ばされてしまう。


「ギギッ!?」


弾き飛ばされながらも空中で態勢を整え手足を広げて回転を緩和し、木の幹に着地。


なのにばんもすかさずそれを追う。ヒト蜘蛛アラクネは、決して鈍重なわけではない。そして、<透明なマンティアン>の頭が横に弾ける。ばんの手(触角)による打撃だった。ちょうど、ボクシングのフック系のパンチに近いそれが、タイミングも角度も申し分ない完璧な形で入ったんだ。


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