前のエピソード――新編　それが社会というもの

こうして新（あらた）は、レトの世話をしてくれるようになった。＜自分の実の子＞は欲しがらなかったクセにこれである。順（じゅん）と変わらないレベルには＜子育ての才能＞があるようだ。まったく、皮肉な話だな。

一方、麗（うらら）の方も、かなり立ち直ってきてくれて、見た目にはもう以前と変わらないくらいにはなってくれた。甘える相手が新（あらた）から陽（ひなた）に変わったというだけで。

とは言え、内心の部分までは分からない。新（あらた）には明らかに＜性的なアピール＞もしていたが、陽（ひなた）に対してはそこまでじゃない。ただ甘えているだけだ。彼にはまだ幼さが残っているからだろうか。

それがどちらにせよ、まだ当面は慎重に見守っていく必要があるだろう。

陽（ひなた）自身、麗（うらら）が望んでる形で彼女を受け入れてくれるかどうかも分からない。結局は、

『大好きな姉の一人としか見ていない』

ということだって十分に有り得る。

いやはや、本当に人生というのはままならん。あと、こうなると和（まどか）の方はどうなるのか？　というのも気掛かりだ。なんとなく、

『陽（ひなた）と番（つが）うかもしれないな』

と思ったりもしてたが、それもどうなるか……まあ、和（まどか）も陽（ひなた）のことは完全に弟と思っていて、＜異性＞としては認識していないようだ。

新（あらた）と凛（りん）、焔（ほむら）と彩（さい）については、割と早い段階からお互いを異性として意識してたようだから、明らかにそれとも違う。

新（あらた）達と違って、陽（ひなた）と和（まどか）は実の姉弟じゃないから別に問題なかったんだがなあ。

でも、まだ分からんか。パパニアンの習性からすれば、麗（うらら）と和（まどか）が陽（ひなた）を共有する可能性だって十分にあるわけで、陽（ひなた）がそれを受け入れるなら、俺は口出しはしない。

結婚観や恋愛観についても、朋群（ほうむ）人は地球人とはまったく異なるものを作り上げていく可能性が高い。地球人じゃない以上は、別に地球人のそれに合わせる必要もないしな。

『地球人の価値こそが絶対』

なんて考えるのも傲慢以外の何物でもない。

そもそも、地球における＜結婚＞という概念だって、地球人類そのものの歴史から言えば割と最近のものらしいし。それまでは、男も女も、気に入った相手なら割と簡単に契りを交わしていたらしいとも聞く。本当かどうかは知らないが、ある権力を握った女性が、惚れた男を独り占めしたいがために一夫一妻制を作ったなどという話も聞いた。

もしかしたら朋群（ほうむ）人も、そんな感じの歴史を辿るのかもしれない。

まあいずれにせよ、その辺りは朋群（ほうむ）人自身が決めていけばいい。当人達が幸せになれるのなら、別に細かいことはいいさ。

タブレットの画面の中で、レトの毛繕いをしている新（あらた）の姿と、視界の隅で、和（まどか）の毛繕いをしている麗（うらら）、さらに麗（うらら）の毛繕いをしている陽（ひなた）の姿を捉えながら、俺は彼らの幸せを願っていたのだった。