新編 人生には付き物

「元気でな、あらた


アカトキツユ村を去るその時、俺は、ローバーの窓からそう言ってあらたに向かって手を振った。


「……」


あらたはただ黙って俺達を見送っただけだが、パパニアンには地球人のような習慣がないから、それでいい。『失礼だ』とか『薄情だ』とか言うつもりもない。ここは地球でもなければ地球人の社会でもないんだ。


こうしてあらたが俺達の下を去ったことで、俺は、即、


「ドーベルマンMPMを二機、アカトキツユ村に派遣してほしい」


と、セシリアを通じてコーネリアス号のAIに指示を出した。するとコーネリアス号のAIは、完成したばかりの四十七号機にフライトユニットを装着させて、アカトキツユ村に向けて派遣。三時間足らずでアカトキツユ村上空に到着。滑走路はまだないから、パラシュートを付けた四十七号機を投下。フライトユニットはそのままコーネリアス号へと帰還した。滑走路ができたら、フライトユニットも常駐させてもいいんだけどな。


もう一機は製造中の四十八号機が完成したらすぐに派遣することになる。


ちなみに、フライトユニットだけでも、例の<あかり式着陸>も可能っちゃ可能なんだが、さすがに機体に大きな負荷が掛かるから、常時それを行わせるのも無理がある。メイフェアやイレーネやセシリアがワイバーンでそれを行っても、同じ機体で何度もするわけじゃないし、コーネリアス号に帰還すればすぐにメンテナンスが行えるからというのもある。


ちなみにセシリアは標準仕様機ということもあってそこまでできないので、シモーヌがコーネリアス号に<里帰り>する際に一緒に行ってメンテナンスを受ける形になっている。だから一年に二度ほどメンテナンスを受けるだけなんだが、彼女にはメイフェアやイレーネのような無茶はさせないこともあって、それで十分だった。


<洗浄>だけなら、規格が合わない光莉ひかり号に供えられたメンテナンスカプセルでも行えるしな。




こうして、四十七号機がアカトキツユ村に到着する前に家に帰った俺達は、やっぱり、屋根の上で蹲ってるうららを、見た。彼女は、ローバーが帰ってくると頭を上げたそうだが、あらたが下りてこないのを確認すると、また蹲ってしまったそうだ。


見てて切なくなる姿ではあるものの、これもまた<人生>ってやつだ。失恋だって、人生には付き物だろう? パパニアンだって、求愛すればすべて上手くいくわけじゃない。フラれることだってもちろんある。そういうものなんだ。


実際、うららにしつこく求愛してくる若い雄も、今日もまた懲りずにやってきて、じゅんに追い返されたそうだ。


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