新編 癇癪

つくづく、ここで獣人達の相手をしてて感じたよ。


『相手が自分の思うように動いてくれるのが当然』


だと考えてると、上手くいかないってことをな。彼らには彼らの感覚があって感性があってメンタリティがある。それを理解しようとせず地球人の感覚を押し付けようとすれば、当然、向こうも反発してくる。攻撃的にもなる。


マンティアンやレオンやアクシーズは基本的に凶暴ではあるが、だからと言って彼ら彼女らは問答無用で殺し合ってるわけじゃない。特に同じ群れの仲間同士なら衝突を避けるようにもしている。地球人並みの知能がなくても意思疎通が難しくても、それをしてるんだ。


確かに、マンティアンは共食いもする、飛び抜けて地球人とはかけ離れたメンタリティも持ってるが、めいかくがそうであるように、パートナーとは穏当に一緒に暮らしもするし、我が子を殺して食ってしまうことも基本的にはない。稀にそういう事例もあるものの、それも、れいが母親に食われそうになったりとかの、一部の例外的なものなんだ。


つまり、


『普通の地球人と同等の知性がないからといって、理不尽なことをするばかりとは限らない』


ということだ。彼ら彼女らには<彼ら彼女らなりの道理>があり、その中に納まっている限りは穏やかでもいられるんだよ。攻撃的になるのは、<彼ら彼女らなりの道理>から外れた時だ。


実はこれは、地球人にも当てはまるそうだ。


<やけに周囲に対して攻撃的で話も通じないタイプ>


も時にいるが、そういうタイプでも常に攻撃的なわけじゃないこともある。つまり、本人の中で、


<攻撃的になる状況>


と、


<そうじゃない状況>


があるんだよ。だからそれを判読できれば、攻撃性を抑えることもできる。穏当な関係を築くこともできる。


こちらの都合を一方的に押し付けようとするから、相手も反発するんだ。


無論、必ず上手くいくとは限らない。むしろ相手に強固な信念や理念や理想がある場合には、相手のそれを受け入れることができないことも多く、折り合いが付けられないんだ。


でもな、幼い子供とかの場合には、その子が何に対して反発するのかを把握できれば、割と上手くやれるぞ。


未来みらい素戔嗚すさのおがまさにそれだ。特に素戔嗚すさのおは、自身の中に湧き上がる衝動を上手く吐き出せなかったから、自分でもどうしていいか分からずに無暗に凶暴になっていた。が、今ではドーベルマンMPM相手に納得するまで発散できるから、随分とおとなしくなったよ。


そして今、俺達は、うららの気持ちと向き合う必要が出てきてる。


あらたへの気持ちのやり場をどうするかという意味で。


確かに、俺達の側から見れば、彼女の<癇癪>は理不尽にも思えるかもしれない。


だけどな、うららは俺じゃない。俺はうららじゃない。俺の感覚を彼女に一方的に押し付けるのは、違うんだ。


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