新編 見応えのある攻防

とは言え、ドーベルマンMPMは、ガチの<どつきあい>を目的に作ったわけではないので、ぶん殴ったりという格闘戦には正直向いていない。が、取り敢えず生身の地球人よりは頑丈なはずなので、攻撃を捌いたりしただけ壊れることはないと思う。


また、タイヤを付けた足は、不整地での走行の衝撃にも耐えられる程度の強度は持っているから、こちらは、突き出す感じの<蹴り>なら十分な威力を出すだろう。いくらタイヤがクッションになるといったって、勢いよくぶつかれば地球人に蹴られた以上のダメージはあるはずだ。


だから、両腕はせいの攻撃を受け流すため。四本の脚を打撃用に利用する。今も、せいの懐に入り込んで、前側二本の脚を、ジャブのように連続して繰り出す。


しかし、せいはそれらを体をひねって躱しつつ、自身も脚を繰り出してきた。そのせいの脚を、四十号機は足のタイヤの部分で受け止める。


動きの正確さは計算通りに出ているな。


と、せいは体をほとんど地面と水平にして鋭く回転させ、逆の脚で続けて蹴りを繰り出してきた。なんという速度。地球人でこれに対応できるのはごく限られた例外だけだろうな。


さりとて、四十号機も負けてはいない。頭目掛けて繰り出されたそれを体を倒して躱してみせる。そして地面に俯せで手をついたせいは、脚を大きく振り回した反動で体を回転させ、四十号機を自身の間合いに入らせず立ち上がり、距離を取った。


実に見事な体裁きだ。一般的なマンティアンと違い、<技>を身に付けている。母親のめいもエレクシアから学んだ<技>を使っていたが、その影響も土台になってるのかもしれないが、それに加えてメイフェアやイレーネとやり合った時に会得したものだろう。たぶん、元々の格闘センスが優れてるんだろうな。これはすごいぞ。


こうして体勢を整えて仕切りなおす。せい自身、四十号機には強烈な打撃が必要だと察したのか、足技主体の攻撃に切り替えてきた。独楽のように猛然と体を回転させつつ連続して蹴りを繰り出してくる。まるで、映画で見た<カラリパヤット>や<カポエイラ>のようにも見える。が、彼のそれは誰かから直接学んだものではなく、メイフェアやイレーネの足技を真似たのがベースになっているとしても、あくまで強大な敵に一撃必殺の打撃を加えるために自ら編み出したものなんだろうな。


本当に頭もいい。


だが、四十号機だって負けてはいない。やや貧弱な両腕は強力な打撃技には使えなくても、四本の頑丈な脚を腕のようにも器用に使い、せいの足技に対抗してみせた。


実に見応えのある攻防だ。


ここまでだけでもドーベルマンMPMの性能は十分以上のものだというのが分かるな。


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