ビアンカ編 朋群の黎明

黎明れいあ……そうか、黎明れいあか……<朋群ほうむの黎明>だな」


赤ん坊の名を聞いて、俺はそう呟いていた。


「ああ、そうだ。錬是れんぜ。僕達の黎明だよ」


久利生くりうも感慨深げに応える。


そんな彼に、俺は、


未来みらいに続いて二人目だ。自分の勝手でこんな世界に送り出したんだし、責任重大だぞ」


と釘を刺す。けれど久利生くりうは、


「もちろん。承知の上だ。生まれてきたことを後悔はさせない。必ず幸せにするさ」


きっぱりと言った。けれど、


「違いますよ、少佐。私達で幸せになるんです。みんなで」


「そうだよ、久利生くりう。私達みんなで幸せになるんだ」


「私も、がんばります」


ビアンカとあかりとルコアが付け足し、


「私達もいます」


「お任せください」


モニカとハートマンも声を上げたんだ。




黎明れいあは、ごく普通の<地球人>と変わらない姿で生まれた。ただ、身体能力的には、これまでの例から考えても地球人とは一線を画すだろう。その辺りも注視していきたい。


が、今は、ビアンカに抱かれておっぱいを飲んでる黎明れいあの姿に、何とも言えない穏やかな気持ちになる。未来みらいに続いて二人目の、


<ビクキアテグ村で生まれた子供>


だ。どちらも久利生くりうの実子である。


きたる未来みらいの妹だよ」


もちろん、池で眠るきたるにも報告する。そして未来みらいは、


「ほ~っ! ほ~っ!」


と、ルコアに抱かれた状態で興味深そうに異母妹を覗き込んだ。


未来みらい、あなたの妹だよ。仲良くしてあげてね」


ビアンカにそう声を掛けられると、


「おーっ!」


と雄叫びを上げた。すると、それにびっくりした黎明れいあが、ビクッと体を竦ませて、


「みああああ~!」


泣き出してしまった。


「あらあらあらあら。よしよしよしよし」


ビアンカが黎明れいあをなだめ、ルコアが、


未来みらい、ダメだよ!」


未来みらいを諫める。するとビアンカが、


「大丈夫。未来みらいは喜んでるだけだから。加減は覚えてもらわないといけないけど、それはこれからだしね」


黎明れいあをあやしながら笑顔で言った。それはまぎれもない<母親>のかおだった。


彼女にとっては、未来みらいも<我が子>だ。きたるが生んだ久利生くりうの子だから、複雑な想いがないと言えば嘘になるが、その事実を認めた上で彼女は母親であろうとしているし、俺達もそれを支える。決して彼女一人に押し付けたりしない。


かつて、メイトギアが実用化される以前には<ワンオペ育児>なる言葉が生まれるほどに母親ないし父親一人に育児を押し付けてきた時期もあったらしいが、ここ朋群ほうむではそんな言葉が生まれないようにしていきたいと思う。


実際、ルコアのことも未来みらいのことも、ビクキアテグ村として受け止めてきた。育ててきた。さらに、モニカやハートマンやテレジアやグレイもいる。ドーベルマンMPMもいる。


朋群ほうむの未来を、


朋群ほうむの黎明を、


幸せなものにしていきたいじゃないか。


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