ビアンカ編 それは来なかった

幼い子供が親を排除しようなんてのは、結局、


『<親がいなくなることによるリスク>よりも、<親がいることのリスク>の方が高いと感じている』


からだろう? むしろそうじゃなきゃ、幼い子供が親を排除しようとする理由がない。可愛らしく親に甘えていれば守ってもらえるのに敢えてそれを捨てなきゃいけない理由はなんだ? 捨てなきゃ自分の存在そのものが危うくされると感じてるからじゃないのか?


つまり、<そういう親>だということだ。


そこまでじゃなきゃ、幼い子供が親を排除する意味がない。


確かに、素戔嗚すさのおの場合は、彼自身が少々過剰な<力比べ>を挑んでくることで、群れでは対処しきれなくなったんだろう。そして、満足するまで構ってもらえなかったことで素戔嗚すさのおは、自分の中に湧き上がる<力>と<衝動>のやり場を見付けられず、荒れてしまった。


これを放置してると、さらに拗らせてそれこそ手の付けられない状態になっていただろうな。それが、ドーベルマンMPMと出逢い、ビアンカと出逢い、自分の力や衝動を受け止めてくれる相手を見付けることができた。そして今、ビアンカに甘えてる。未来みらいと同じだ。


これもまあ、まだ<拗らせる前>だったからこんなにスムーズにいったんだと思う。もし、完全に拗らせてからだったら、どうしようもないただただ<凶暴なだけの獣>になっていた可能性は高い。痛い目を見て身のほどを知って引き下がってくれたらいいが、もしそうじゃなかったらそれこそ命を奪うしかなかったかもしれないな。


このままうまくいってくれる事を願うだけだよ。


ビアンカのストレスを解消する役回りになる久利生くりうもかなり大変だろうが、これも<ビクキアテグ村という群れのボス>である彼の役目だ。その辺りについては腹を括ってもらうしかない。


などと、俺が言うまでもなく、彼はそのつもりだけどな。そうじゃなきゃ、あかりも惚れたりはしない。









新暦〇〇三四年四月十日




そうしてさらに一ヶ月が過ぎ、素戔嗚すさのおはすっかり、ビクキアテグ村のすぐ傍の草むらを寝床として、<一匹狼>ならぬ<一匹レオン>としての生活を確立していた。


いや、実際にはビアンカに甘えている状態だから、<一匹レオン>とは言い難いか。むしろビアンカが<母親>の、ビクキアテグ村の一員に近い状態だろうな。それもあって、今はもう、ヘルメットとゴーグルは使わず、素顔を素戔嗚すさのおに見せてる状態だ。体の方は念のため、防弾防刃スーツとプロテクターは着けてるが。


そんな中、ビアンカの次の月経の予定日が過ぎても、それは来なかった。初潮を迎えたばかりの場合だと最初は必ずしも規則正しくこないものらしいというのは俺も知ってたが、ビアンカの場合は、本来の人間の体だった時には規則正しく来てたそうだからな。


で、念の為、検査すると。


「たぶん、妊娠ね」


データを見たシモーヌがそう告げたのだった。


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