ビアンカ編 辛い決断

構図的には<弱い者イジメ>にも思えるが、もちろん手加減はしているし、何よりビアンカは本当はこういうことはしたくないと思っている。思っているが、素戔嗚すさのおにわきまえてもらうには力の差を思い知ってもらうしかないから、やっているだけだ。


とは言え、さすがは元職業軍人。彼女のことをよく知らない人間の目にはまったくそうは見えないであろうほどにおくびにも出さず、対処する。


ドーベルマンMPMの強烈なビンタを食らって地面を転がった素戔嗚すさのおの前に立ちはだかり、見下ろす。ドーベルマンMPMのカメラ越しにタブレットの画面で見ているだけの俺でも背筋が寒くなるほどの迫力だった。飢えたトラやライオンの前に放り出されたらこんな感じだろうかと思ってしまう。


さらに、ドーベルマンMPMが包囲し、完全に逃げ道を失った素戔嗚すさのおだったが、再びドーベルマンMPMに挑みかかり、やはりビンタを食らって地面を転がった。なのに、すぐに体を起こしてまた別のドーベルマンMPMに挑みかかり、さらにビンタを食らう。


正直、見ていて痛々しい。めいの息子のせいしょうの息子のりょうもこんな感じなところもあったが、素戔嗚すさのおはそれ以上だな。


それこそ、『頭のネジが何本か飛んでる』状態だ。


何とか身の程をわきまえてほしいんだがなあ。


けれど、ビアンカはそれも含めて覚悟している。


素戔嗚すさのおを死なせてしまう可能性>


も含めてな。


本質的に心根の優しいビアンカにとっては辛い決断だろうが、本来の<守るべき相手>を履き違えないためには、必要なことだ。何より、万が一のことも含めて、彼女自身が納得したいんだと思う。結末について。


『こうする以外になかった』


というのを、自分で確認したいんだ。


そういう気持ちは、俺にもあるな。非力な俺には出来ないことだが。




そんなこんなで、さらにドーベルマンMPMのビンタを食らって、素戔嗚すさのおの意識が途切れ、人形のように地面に倒れ伏した。


いやはや、ここまでやっても引かないとか、本当にどうかしてるぞ。


素戔嗚すさのおから二十メートルの距離を置きアンブッシュ。監視及び保護」


素戔嗚すさのおのバイタルサインを取得し命に別条がないことを確認のうえ、ドーベルマンMPMにそう指示を与えて、ビアンカはビクキアテグ村に戻った。


「お疲れ様」


久利生くりうにそう出迎えてもらえて、ゴーグルを外したビアンカは泣きそうな顔で彼に抱き付いた。それを、ルコアとあかりが見守る。


未来みらいはよく分かってない表情で不思議そうに見ていたが。




一方、しばらくして意識を取り戻した素戔嗚すさのおは、周囲を見回した後、自分の体を舐め、毛繕いを始めたのだった。


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