ビアンカ編 一匹狼

新暦〇〇三四年二月十八日




こうして、ビアンカが素戔嗚すさのおの対処をすることに決まったわけだが、それはまああくまで『ビアンカがその担当になった』というだけであって、主に対処するのはやっぱりドーベルマンMPMだけどな。


それも、決まった機体で相手するわけじゃなく、哨戒任務に就いている機体で素戔嗚すさのおに遭遇したのが対処する形だ。


しかし、<朋群ほうむ製AI>を個別に搭載することになったアリスやドライツェンに対して、機体そのものを統括的に制御してるのはあくまでコーネリアス号のAIであるドーベルマンMPMは、基本的には<個体差>というものがほぼない。ドーベルマンMPM全体で一体のロボットだとも言えるだろう。一応、製造順に番号も割り振ってはあるものの、夷嶽いがく牙斬がざんとの戦闘で破壊され、使える部分を寄せ集めて<ニコイチ><サンコイチ>になった機体もあり、機体番号自体に意味もなくなってしまった感はある。


そんなドーベルマンMPMを従えて、ビアンカが哨戒に出る。


すると、ビクキアテグ村からそれこそ目と鼻の先の茂みに素戔嗚すさのおが潜んでいるのが確認された。ドーベルマンMPM及びドローンのカメラやセンサーの情報が表示されるようにしたゴーグルを着けたビアンカが、慎重に近付いていく。


素戔嗚すさのおは、この台地に近似種が広く生息するネズミに似た小動物を捕らえて食事をしているところだった。群れの中では孤立気味であってもそうやって自力で餌を確保できていることで、もう、事実上、<自立>できている状態だな。だから群れで孤立しててもさほど問題もないようだ。


が、そういう性分だと、他の群れに加わることも、自分で新しく群れを作ることも、難しいのかもしれない。


いわゆる、<一匹狼>的な存在か。


群れを作ることで生きている動物の場合、そういうのは生きる上で非常に不利だろう。だから多くは長く生きられずに死んでいくに違いない。それが素戔嗚すさのおの宿命だとしても、それはそれで仕方ないとも言える。


ただ、同時に、ドーベルマンMPMと出逢い、それにしつこく挑むことでこうやって俺達の印象に強く残った形になり、結果として関心を引いたのは、素戔嗚すさのおにとっては幸運だった可能性も否定できないな。


だってなあ、こんな風に関わってしまうと、見捨てることもしにくくなるしな。


あんずやますらおが拾ったヒナのように。




「……」


軍人として油断なく素戔嗚すさのおが潜んだ草むらを見詰めるビアンカを、素戔嗚すさのおの方も、餌を貪りながらも睨み付けていた。ドーベルマンMPMよりもはるかに大きな<動物>の力を見極めようとするかの如くな。


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