ビアンカ編 絶対に勝てない相手

ドーベルマンMPMは、簡単に作れるようにするために極限まで機能や装備を簡素化してるから、この時の素戔嗚すさのおの<嚙む力>を正確には測定できないものの、全体の状態を把握するためのセンサーはさすがに装備してるので、そこから推定されるそれは、本当に人間(地球人)の手首くらいなら喰いちぎれるほどのものだった。


いやはや、恐ろしい。


それでも、一応、生身の人間(地球人)よりは頑丈にできているドーベルマンMPMには、文字通り歯が立たない。


が、振り払おうとして腕を回したのに、素戔嗚すさのおは顎の力だけで自身を支え、もちこたえてみせた。


ところで、未来みらいは、<力比べ>のために同じように掴みかかってはきても、噛み付いてまではこない。だから未来みらいのそれはあくまでじゃれついてるだけであって、<攻撃>じゃない。


一方、素戔嗚すさのおのは、完全に相手を喰い殺すためのものだった。だから、正直、ビクキアテグ村の守りが今より手薄だった場合、こうやって村に近付いてきて攻撃を仕掛けるということであれば、<駆除>も視野に入れて対処しなけりゃならないだろうな。


しかし、今のビクキアテグ村の守りは、牙斬がざんのような<埒外の怪物>でもない限り、破れない。だから命まで奪う必要は、ない。ないが、ここは素戔嗚すさのお自身のためにも、


<絶対に勝てない相手>


だと理解してもらわなきゃいけないだろう。


そんなわけで、手加減はしつつ、同時に圧倒的な力の差を見せ付けるべく、ドーベルマンMPMに対処してもらうことになった。


とは言え、ドーベルマンMPMの腕に喰らい付いたままぶんぶんと振り回される光景は、なんだかちょっと可愛い。


夕食の席で、久利生くりう達も、ドローンのカメラに捉えられた映像を見て、


「可愛い……」


ルコアが思わず呟いた。もっとも、この勢いで振り回されてもはずれない顎の力とか、首だけで自分のほぼ全体重を支えていることとか、見る者が見たら半端ない素戔嗚すさのおの能力が垣間見えるものだったそうだが。


さりとて、これ以上振り回したらさすがにマズいと判断。ドーベルマンMPMは動きを緩めて、素戔嗚すさのおを地面に下ろした。と言うか、素戔嗚すさのお自身が姿勢を整えて地面を捉えたんだ。


しっかり一分以上振り回されていたというのに、目すら回していない。途方もない身体能力だな。


しかも、地面に足が着いた瞬間に顎を離して、ためらうことなくさらにドーベルマンMPMの懐に飛び込もうとする。明らかに首を狙ってのことだ。でもまあさすがにそんなことを許しはしない。


大きく口を開けた素戔嗚すさのおの横っ面に、ドーベルマンMPMは強烈なビンタを食らわしたのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る