モニカとハートマン編 気迫

牙斬がざんには牙斬がざんで<戦う理由>があるんだろうが、俺達にだって、『家族を守りたい』『仲間を守りたい』という<戦う理由>はある。


そして、ロボットであるハートマンにも。


外見上では大きな差異のないハートマンとグレイだが、不思議と、違いが分かる気がする。


ハートマンの動きは、激しく、まるで叩き付けるようなそれなのに対し、グレイの動きはまさしくロボットそのものの、冷淡で、効率一辺倒で、ただただ的確なそれだった。


ハートマンはモニカと共にルコアに寄り添っていることで、より<人間っぽさ>を求められるのに対し、グレイは久利生くりうの下で<軍属>的な在り方を求められるからだろうか。いずれにせよ、いよいよ<個性>がはっきりしつつあるということだろうな。


これに対し、軍用の戦闘ロボットなどは<個性>によるバラツキを回避するために、それこそ順次、同期を図ったりするそうだが、それはあくまで<軍隊>という組織だからこそ求められるものであり、


『ロボットに個性は必要ない』


と断じるものでは決してない。実際、メイトギアなどでは、それぞれの主人に対して最適化され、同じメーカーの同じ機種でさえ、見た目は同じなのに振る舞いがまったく違って見えることさえあるからな。俺のエレクシアなんてそれの最たるものだ。前の主人によりカスタマイズされたことも含めて。


そのエレクシアが、グレイとの<手合わせ>で得たデータの整理のためにインターバルを取ったハートマンに告げる。


「ハートマン。あなたの戦い方には無駄が多い。ですが、相手が高度に訓練されたものでなければ、それは必ずしも<弱点>とはなりません。特に、相手が生物である場合には、<気迫>というものが勝敗を分けることもある。私達ロボットには<心>がありませんから、おのずと<気迫>も持ち得ないものの、あなたの激しさは<擬似的な気迫>を演出することでしょう。ルコアを守りきれなかったことを悔やむのであれば、それを牙斬がざんに叩きつけてやってください」


ロボットがロボットに掛けるものとしては実に奇異な言葉だったものの、ナンセンス極まりないと言われかねないそれだったものの、俺は、決して変だとは感じなかった。


結局、今はまだまだ、俺達の<群れ>は組織化されていなくて、あくまで<個の集まり>なんだ。そこに、効率一辺倒の存在があまりに多くいちゃ、たぶん、ギクシャクしてしまうだろう。むしろ、ハートマンのような<人間臭さ>が必要なんだと感じる。


ああでも、グレイみたいなのがダメだって意味じゃないぞ? グレイみたいなのはグレイみたいなのでそれ自体が<個性>なんだ。


だからどちらも必要なんだよ。


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