モニカとハートマン編 ただただ陰から

ルコアのためにハートマンは戦う。たとえ、<思春期の娘に避けられている父親>のように彼女に距離を置かれていても。


いや、ルコアも別にハートマンのことを嫌ってるわけじゃないんだ。ただ、どう接していいのか彼女も分かってないだけで。


ハートマンもそれが分かっているから、無理に彼女と親しくなろうとしない。ただただ陰から彼女を守ろうとするだけだ。その<恩>を売るでもなく。


そんなハートマンに対しても、牙斬がざんは容赦ない。ドーベルマンMPMの一機を<電撃>で沈黙させ、さらに一機を、杭打ちのような蹴りで制御系を破壊して沈黙させる。


本当にとんでもない奴だな。


もちろん、ドーベルマンMPM達はロボットだから、壊れれば何度でも修理すればいい。それでも、破壊されていくのを見るのはいい気分なものじゃない。


そしてルコアも、今は心配させないように家の中でモニカと遊んでもらってるが、たとえロボットであっても傷付けば悲しむ子だ。それも分かっているからこそ、ハートマンはそういう意味でもルコアを守ろうとする。


だからこそ、三機目のドーベルマンMPMを沈黙させた牙斬がざんの隙を突き、ハートマンが渾身の右ストレートをお見舞いした。


ウエイトの面ではハートマンに大きく劣るであろう牙斬がざんの体が、綺麗に地面へと叩き付けられる。


なのに、まるで堪えていない。ダメージが通っていない。ゴムボールのように体を弾ませ地面を踏みしめ、平然と身構え、牙を剥く。


まったく、どこまでもとんでもない。


とんでもないが、生物である以上は、いずれ必ず限界は来る。給電が途絶えない限りスタミナが尽きることがないロボットと違って。


ある意味、がく夷嶽いがくのように、『自らの重量で押し潰す』という戦術を使えない牙斬がざんが相手なら、むしろ戦いやすいかもしれない。


しかも、牙斬がざんは立て続けに電撃は使ってこなかった。どうやら連続使用はできないようだ。少なくとも数分間の間隔を開けないと使えないのだと思われる。


そこに、新たな影。


「グレイ!」


そう。グレイだった。グレイが六機のドーベルマンMPMを従えて合流したんだ。


これで、単純な戦力で言えば、倍。しかし実際には、グレイとの連携により戦術の幅が広がることから、実質的な戦闘力は数倍に跳ね上がる。


事実、グレイが加わった瞬間に、二発三発と立て続けにぶん殴り蹴りを入れられた。


するとさすがの牙斬がざんも横っ飛びし、距離を取ろうとする。ドーベルマンMPMで、逃げられないようにと阻もうとしたが、これは無理だった。鋭い爪を真っ直ぐに揃えた<四本貫手>が、制御回路が収まる部分を貫き、一撃で沈黙させ、間合いを取られたのだった。


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