モニカとハートマン編 人間(地球人)の匂い

ドローンを睨み付けた牙斬がざんの体が、一瞬、青白く光ったように見えた。<電磁パルス攻撃>だ。


しかし、百メートル以上離れたところからのそれだったからか、画像は乱れたもののドローンが機能を停止するところまでは行かなかった。コーネリアス号に元々装備されてたドローンについては、そこそこしっかりしたシールドも施されている。だからまあ、この程度なら大丈夫だったようだ。とはいえ、至近距離となれば保障の限りじゃないだろう。


ドローンを撃墜できなかった牙斬がざんは、改めて凄まじい速度で走り始めた。


「方向的には、コーネリアス号に遭遇するコースです」


イレーネの報告に、俺はギリッと歯を食いしばってしまう。


ここまで、牙斬がざんの様子を窺っていたが、レオンや他の獣人達が近くにいても取り立てて襲い掛かる様子もなかった。だからそう達は、たぶん、安全だと思う。それにそうは利口だしかいは用心深いので、牙斬がざんの異様さを見れば無理に戦うのではなく逃げることを選択してくれるはずだ。ただ、ルコアやビアンカについては、どういう判定になるのかは分からない。獣人と見做されるのか、人間(地球人)と見做されるのか……


まさか試すわけにはいかないので、今の時点では『人間(地球人)として見做される』という前提で対処する。


それで言うと、こうしてコーネリアス号に向かっているところを見ても、<人間(地球人)の匂い>をコーネリアス号から感じ取った可能性があるか。


しかし、このままコーネリアス号に向かわせるわけにもいかない。たぶん大丈夫と言っても、本当にそうかいりん達が攻撃を受けないという保障もないしな。


久利生くりうも承知してくれていて、


「ハートマン! グレイ! 牙斬がざんを迎撃! 同時に、<D>を派遣! 誘導を試みる!」


と指示を出してくれた。


ただ、今回は完全に<人間(地球人)の匂い>を察知されてしまったからな。ハートマン達やドーベルマンMPMで誘導できるかどうか……実際、ドローンでは誘導できなかった。背後に位置させても、意識は向けたものの進路は変わらなかったんだ。


だから、<人間(地球人)の匂い>がした方向に向かっているんだろう。


となれば、牙斬がざんを捕獲して、匂いが決して届くことのない遠方へと移送するしか、死なせずに脅威でなくす方法はない。麻酔などを使ってずっと眠らせておく方法も考えたが、麻酔で眠らせたまま長期間の生命維持を行えるだけの設備はないし、恒星間航行技術ハイパードライブを搭載している俺の光莉ひかり号にもコーネリアス号にも、<コールドスリープ設備>は搭載していないんだよ。


必要がなかったから。


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