麗編 甘え

新暦〇〇三三年十一月五日。




さて、直接生んだわけじゃないが遺伝的には<母親>と言えるメイガスのお墨付きも貰ったことで、ルコアについてはこのままでいくことにしよう。


すっかりビアンカに懐いて彼女を<母親>のように慕ってるルコではありつつ、まだまだ、時折精神的に不安定になることもあるのが確認されているから、油断はできない。


彼女は彼女だ。<俺達とは別の人間>だ。だから俺達と同じようにはいかない。


ゆっくりと、ゆっくりと、育っていってくれればいい。


それでも、少しずつ、ビアンカが傍にいなくても大丈夫な時間は伸びていってるのも事実。


もっとも、それ自体、行きつ戻りつではある。三十分平気だったと思ったら、また十五分に逆戻りということも何度もあった。決して、こちらの想定通りにはいっていない。


だが、俺達はそれを承知の上でやってる。ビアンカも久利生くりうも、分かってくれている。


<二人の時間>は十分に確保できていないが、それはあくまで今だけだ。いずれはルコアも成長し、精神的に自立する。完全には自立できなくても、今ほどビアンカにべったりでなくても大丈夫になる。


それを待たずに力尽くで自立させようとするから、承認欲求を拗らせたりする。子供の欲求というものは、本人の成長と共に変化するものだ。甘えたいならたっぷりと甘えさせてやれば、いずれは収まる。満足してないのにお預けを食らわせれば、『もっと、もっと!』となる。


ここは、それを実際に確かめられる場所でもある。


俺自身、それを確かめてもきた。


ひかりを育てている時、他に用事があって俺が構えずにいると、次に構ってやれた時にやけに甘えてくることがあった。エレクシアがいたからまだ抑えられてたのかもしれないが、たぶん、エレクシアでは<何か>が違っていたんだろう。俺からでないと得られない<何か>を求めていたんだと思う。


それが何であるのかはひかり自身にも分からないそうだ。ただとにかく、上手く言葉にできない物足りなさが、エレクシアにはあるとのこと。


そしてエレクシア自身は、


「そういう事例は数多く報告されています。具体的にそれが何を指しているのかはまだ研究段階だったようですが、数値的に有意なものである以上、蔑ろにはできません。ゆえに、育児については私達メイトギアだけで済ませず、肉親の積極的参加が推奨されているのです」


と、ひかりの<甘え>が人間として当然のものであると理解していた。メイトギアである彼女は、人間のようにそれを寂しがったりはしない。


なお、あかりの方は、シモーヌがいたからか、ひかりほどは俺に甘えなかったな。それでも甘える時には甘えてたが。


いずれにせよ、ひかりが俺を必要としていたように、今のルコアにはビアンカが必要なんだ。ビアンカの傍にいることで、彼女の<心>は養われているんだと思う。




などということを俺が考えていると、屋根の上で、うららあらたに体を擦り付けていたのだった。


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