当編 当の嫁(仮)

新暦〇〇三三年三月十五日。




そんなわけでルコアのことも気にしつつ、ここからは、ちからはるかの娘であるきたるの息子で、俺とは血の繋がりはないもののちからはるかにとっては孫である<あたる>について触れていこうと思う。


と言うのも、あたるが今、一緒にいるクロコディアが、ちょっと気になる個体なんだ。


あたるの祖母であるはるかと同じく、<不定形生物が変化した個体>らしいんだよ。


はるかの事例で確認できたように、キメラではなくてある特定の種を再現した場合は、透明であること以外は完璧に再現されていて問題ないように思うものの、やっぱり気になるのは気になるからな。


外見上は間違いなくクロコディアなんだ。クロコディアなんだが、その物腰が、


『らしくない』


気がするんだよ。


まるで、知性と理性を持った<人間>のような……


確信はない。ここまで見守っている範囲内では、


<おとなしいクロコディア>


だと言ってしまえばそう思えなくもない気もするし。


だから、気にはなりながらも、過剰に注視することは避けてきた。何か問題があれば、ドローンやプローブで監視している光莉ひかり号のAIが警告を発してくれるし。


なのに、ルコアが現れたことで、改めて余計に気になったんだ。


『人間的すぎる……』


とな。


シモーヌは、


「そう…かな…? 言われてみればそう見えなくもないけど、うん。他にもこんな感じの個体はいたし、私としては<個体差>の範疇かなって思うんだけど」


と、<専門家>として意見を述べてくれる。彼女がそう言うのなら、たぶん、そうなんだろう。俺が素人だから、素人考えで意識してしまっているんだろうなとも思う。


思うんだが、思い過ごしだとは自分でも感じるんだが、まあ、ただの思い過ごしならそれでいいんだが、納得するまでは、念の為に、な。


音声ではルコアとビアンカの様子を窺いつつ、映像ではあたるつがいとなったその雌の様子を見ていた。


今の時点では、名前は付けていない。<あたるの嫁(仮)>と心の中で呼んでいるだけだ。


なのに、その、<あたるの嫁(仮)>が、自分を監視しているドローンにちらりと視線を向けた。


距離は決して近くない。なるべくストレスを掛けないように、数十メートル離れたところから望遠で見ているだけなんだが。


にも拘らず、そのドローンが自分を監視しているのが分かっているかのように、睨み付けた気がしたんだ。


そう。『気がした』。気がしただけなんだ。本当にたまたま、空を飛んでいるおかしな<何か>が気になって視線を向けただけというのが実際のところかもしれないものの、俺には何らかの<意図>が見て取れてしまったんだよな。


なにしろ、同時に何かを呟くように口が動いたのも見て取れたから。


まるで人間がボやくみたいに。


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