ルコア編 長い長い戦い

俺は、


『他人に厳しいというのは、裏を返せば自分に甘いのと同じ』


だと思ってる。


他人を自分の思うように操ろうとするのは、それが自分にとって都合がいいからだ。自分にとって都合いいことを実現するために他人にそれに従うことを強要するというのは、完全に『自分に甘い』よな。


『そうするのが当たり前』


とか、


『郷に入れば郷に従え』


とか、事情がよく分かってるごく身近な者が言うのならまだ分かるんだが、従わせようとしてる方が言うのは、うん、自分が楽したいからだと思う。自分にとって都合のいいようにしたいから以外の何ものでもない。


だが、今回、ルコアは、両親もいないまったく知らない場所に、しかも<透明な半人半蛇>(実際にはヘビじゃなく、ヘビに似た別の生き物なんだが)という異形の体を持たされていきなり放り出されたんだ。


それで、


『こっちの都合に合わせろ』


『こっちのルールに従え』


といきなり言われたって、対処できるはずもない。こっちの都合やルールに合わせて従ってとしてもらうのは、彼女自身が、自分の意思で、合わせるか従うかを決められるようになってからでいいと思う。


彼女がもし危険な存在だったらそんな呑気なことは言ってられなくても、取り敢えず今のところはそうじゃないからな。


「美味しい……」


モニカが作ってくれたスープを口にして、子供っぽい感じでそう呟く彼女の何が危険だと言うのか。


が、まあ、念の為にいろいろ調べさせてはもらうが、はっきり言ってただの<アリバイ作り>というのはある。今後も、同様の事例が起こることはあるだろうし、その中には、危険な存在だっているかもしれない。それに備えてのことでもあるんだ。そのための<体制>づくりなんだよ。


加えて今回は、いきなり何人もの人間と対面させるのも彼女にとっては大きな負担になるだろうなというのもある。


上手くビアンカには懐いてくれたみたいだから、まずは彼女と暮らすことで落ち着いてもらうんだ。


『数日、コーネリアス号で過ごしてもらってそれからビクキアテグ村へ』


とは言ったものの、もうすでに、それが甘い見通しでしかないと感じてきている。正直、数週間、場合によっては数ヶ月を要する気もしてきた。


そのためにも、<応接室風の隔離室>は非常に便利だ。


なにしろ、完全に宿泊設備としての機能も有してるからな。加えて、ビアンカでも無理なく動ける広さもあるというのがいい。


そこのテーブルに着いて、ルコアと一緒にビアンカもスープを口にする。


さすがにそれだけじゃビアンカにとっては物足りないからまた別に食事を摂ることにはなるものの、取り敢えずルコアを安心させるためだ。同じものを食べてるというのは、結構、心理的に影響があるらしい。


特に、大きな不安の中にある子供にとってはな。


さて、これでようやく、スタートを切れたわけだ。


ここから、長い長い戦いが始まるぞ。


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