ルコア編 隔離室
『まったく、どこまでも得体の知れないやつだな……』
例の不定形生物について、改めてそう感じてしまう。
しかし考えてみると、わざわざ動物を捕えてデータとして取り込んでいるのなら、それでシミュレーションを行うにしても一つのパターンだけというのも、確かに非効率的にも思える。
実際、<高度シミュレータ>と呼ばれる、政府などが管理する超高性能なシミュレータでは、同時にいくつものシミュレーションが行われているのが普通だとも聞いた。となれば、あの不定形生物内でも同じことが行われていても不思議じゃないのか。
とは言え、さっきも言った通り、俺は現に目の前にあるものをそのまま受け止めることにしている。ここに来る前のシモーヌやビアンカがどうだったかなんて、生き死にに関わるようなことじゃない限りはどうでもいい。
今回の<サーペンティアンの少女>についてもな。
ただ、疫学的な面もそうだし、少女が本当に俺達にとって致命的な危険をもたらす者でないかどうかについては、可能な限り調べさせてもらわなきゃいけないのも事実だ。
まったく調べもしないで見た目の印象だけで『こうだ!』と決めつけてしまうことの危険さは、つい今しがた改めて思い知らされたところだし。
軍人であるビアンカも、その辺は承知してくれている。
「ごめんね。あなたももう分かってると思うけど、あなたは今、普通の状態じゃないの。だからいろいろ調べないといけない。いいかな?」
極力穏やかに、きつい言い方にならないようにビアンカは少女を諭してくれた。いやはや、本当に優秀だよ。彼女は。
すると少女は、怯えながらも、
「痛いこと、しない……?」
縋るように訊いてきた。
それに対してビアンカも、
「そうね。痛くないようにする。だからちょっと髪を梳かせてね」
微笑みながら応えた。
少女と共に入ったそこは、<隔離室>と言えば少々イメージは良くないだろうが、パッと見は、今のビアンカでも通れる大きなドアがついた<無駄に広い応接室>という印象のただの部屋だ。クローゼットやドレッサーもある。
<隔離室>自体は複数あって、ここは『人間も含めた知的生命体用の』ということかな。
そしてビアンカはドレッサーからブラシを取り出し、カーペットの上に座らせた少女の髪を梳き出した。今の姿になってからおそらく髪を梳いたりしてないだろうからかなり絡まっていて汚れも目立つようだ。
ほとんどまともにブラシが通らない。
「これは先にお風呂に入らないとダメかも」
髪を梳くのを諦めてビアンカが言う。
しかし同時に、脇に控えていたグレイにブラシを渡しつつ、
「分析をお願い」
と告げたのだった。
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