按編 地球を作った神

ビアンカは、少女が何に怯えているのかを察していた。他の<獣>に怯えているのもあるんだろうが、それ以上に、今の自分自身の状態に怯えていたのだろうと。


彼女自身にも覚えがあるがゆえに。


蜘蛛のような虫のような、得体のしれない<何か>になってしまった自分自身が何より恐ろしかったんだ。


この少女も、腰から下がヘビのようになってしまっている自分自身が恐ろしかったんだろう。


「はい、まずは水分と塩分とミネラルを補給してください。これはそのためのドリンクです」


ビアンカが差し出した水筒を受け取りつつ、少女がそれを一気に口に含んだ。と同時に、


「ごほっ! ごほっ!!」


思い切りむせてしまう。


「落ち着いて。慌てなくていいですよ。ゆっくりと飲んでください」


透明な少女の背中をそっと撫でながらビアンカが労わる。自分がしてもらえたことをやってあげているんだ。だから俺は、少なくとも敵対していない相手に対しては労わりたいと思ってきた。尊重することを心掛けてきた。


もちろん、それが空振りに終わることもある。ただの徒労となってしまうこともある。だが、だからといって<他人の所為>にして誰かを蔑ろにはしたくないんだ。それが当たり前の世界をここに作りたくはない。


つくづく、『世界を作る』ということが簡単なことじゃないと感じる。適当に作るだけ作って、


『後は知らん。お前らで勝手にやれ』


って形だったら確かにそんなに大変じゃないかもしれない。もし、


<地球を作った神>


とやらがもしいるとしたら、


『どうしてもっと丁寧にやってくれなかったんだ!?』


みたいに文句の一つも言いたくなるよ。


あんなに人間同士で傷付け合わずにいられない状態で放っておいたのか、な。


俺が<神>以上にちゃんとできるみたいに思い上がることはできないが、少なくともやれることだけはやっておきたい。


幸い、今ならエレクシア達もいる、光莉ひかり号もコーネリアス号もある。


だったら人間(地球人)の失敗から学んだことをきちんと伝えておきたい。


クモ人間アラニーズとして生まれてしまったにも拘らず、今、サーペンティアンの少女をこうして労われるビアンカの姿に、大きな可能性を感じるんだ。


もちろん、生きるためには戦わなければいけない時もある。それは承知した上で、戦うべきか否かを冷静に理性的に考えられるようになってほしい。それができるだけの余裕を作っておきたい。


自分ばかりが感情的になっても許される世の中なんてのは、存在しないんだ。


それがまず大前提だよな。




なんてことを考えながら見守ってると、あんも、ビアンカと少女を見守るかのように見詰めていたのだった。


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