按編 美しい

ビアンカも帰り、夜。


今日は早々に獲物を仕留められたこともあってすでにあん達は寝床に帰ってきていた。


とは言え、レオンにとって夜はそれこそ活動時間そのもの。月明かりの中を、あんは、縄張りの見回りがてら散歩をしているようだ。


ドーベルマンDK-a号機を伴って。


あんが歩くと、闇の中に潜んでいた小動物達がさっと逃げていく。今は満たされていて狩りをする気分じゃないといっても、レオンはレオン。他の動物達からすれば明らかな脅威だ。


だから逃げるのは当然。


ただ、月明かりに照らされたあんは、とても、


『美しかった』


雌とか雄とかという以前に、間違いなく美しいんだ。この子は。


正直、俺はそれで十分だと思う。


とは言っても、何を『美しい』と感じるかは人それぞれだろうなってのもある。これまでにも何度か言ったと思うが、俺は、誰もが『美しい』と評する女優のことは、興味も持てなかった。なるほど綺麗な顔立ちをしてるなとは思うものの、それだけだ。気持ちの上で惹かれるものがなかった。


なにしろ俺は、その女優のことを、何も知らないんだからな。名前やプロフィールくらいは公開されてる情報を見れば分かる。彼女が出ている映画やドラマを見れば、その立ち振る舞いや所作も分かる。


だが、それだけだ。そんなものは、彼女が女優である以上、いくらでも演じることができるだろう。そうやって俺達が見ることができる部分は、彼女の<本当の姿>じゃない。


俺は、相手の裏も表も見てからじゃないと、好きになれるかどうかさえ判断ができないんだ。


そういう意味で言えば、『付き合う』っていうのは、


<相手の裏も表もすべての部分を確認する作業>


なんだろうなっていうのをすごく感じる。だからフられたとしても、相手にとって俺が今後も付き合いを続ける対象としては適してないって判断されただけだから、むしろ別れるのはお互いのためだったんだろうな。


自分にとっていくら納得できないとしても、相手にとっては『無理』だったんだから、これはもう受け入れるしかない現実なんだよ。変に執着するよりは切り替えていくべきだと俺は感じてる。


<自分を認めてくれない相手>


なんだ。無理に一緒にいようとしてもストレスにしかならないんじゃないか?


幸い、俺は気持ちの切り替えができるタイプだったから、ストーカーとかにはならずに済んだ。


その点で言えば、めいに付きまとったさくは、本当に憐れだと思う。早々に諦めて次を探していれば、もしかしたら別の結末もあったのになと思わなくもない。


それに対して、あんはどうしていくんだろう?


このままが一番いいんじゃないかと俺は思うんだが。


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