來編 おめでとう

コーネリアス号がある草原は、それを貫くように流れる、いつもの<ルート>に使っている河の上流に当たる川の他にも、やがてそちらに合流することになる川がいくつかあった。


そこは、本流に当たるコーネリアス号の近くを流れるそれに比べると小さく、流量も少なく、例の不定形生物がいないことは確認されていた。


だからそのほとりは、水を確保するには丁度いい場所でもある。きたるもついて行くなら、十分な水の確保は必須だからな。


しかも、エレクシアが提示してくれていた集落候補地の一つでもあった。


あかりもビアンカもそれでいいのか?」


問い掛ける俺に、


「おうよ!」


「はい!」


と二つ返事だ。


『誰かが快適な環境を与えてくれてそこで安穏とできることが<幸せ>』


的な<普通の人間>とはさすがにわけが違うな。


きたるについては、まあ、本人が久利生くりうについていくならということでいいだろう。


となれば、もたもたしてる意味もない。アリス参号機とドライツェン参号機は明日にも稼動できるそうだから、先に派遣して基礎工事を始めててもらおう。


アリス参号機とドライツェン参号機のAIは、それぞれ零号機から弐号機が蓄積したデータを基に構築した<仮想AI>をコーネリアス号のAI内に作り、それで制御する。


なので、集落作りなど手馴れたものだ。この辺りはさすがに人間と違って便利だよ。文字通りの<即戦力>だからな。


しかし、同時に、今のうちに集落についてアイデアを出していく。


「ビアンカとあかりが暮らしやすいように、ここの造りをベースにしよう」


久利生くりうの決断は早い。


弱い部分を明らかにしたからといっても彼が優秀な人材であることには変わりない。むしろその弱さを確実に支えてくれる力強い<パートナー>を得たことで、そしてパートナーの側も、彼をどう支えればいいのか分かったことで、きっと強固な<ハーレム>を築いてくれるだろう。


あかり、おめでとう」


久利生くりうというパートナーを得ることが本決まりになった彼女を、家から出てきたひかりが祝福してくれる。


「ありがとう、お姉ちゃん! 私はここを出て行くけど、お父さんとみんなをよろしくね!」


実にあっさりしたものではあるものの、そこもこの二人らしいな。


それに、


「でも、ミレニアムファルコン号もあるしさ、ちょくちょく顔は出すよ」


ニカッと笑いながらあかりが言う。


『娘が嫁いで家を出る』


的な話のはずなんだが、ちっともしんみりした感じにならない。


けどまあ、それがまたいかにも俺達らしくていいか。


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