來編 ライバル

「私は学者ではないものの、軍人としても、こうやって直に現場に赴いて、自分の目で自分の手で自分の五感で確かめるということの重要性を改めて感じるよ」


コーネリアス号が不時着した時にも、ドローンによる周囲の調査は行ったが、画面越しのそれとの違いに、久利生くりうも改めて感慨深げに呟いた。


それは俺も感じるところだ。この台地の上については、母艦ドローンを派遣して大まかには掴んだつもりだが、やっぱり実際に現地に行って自分の目で見るのとは違うって感じるし。


その久利生くりうが見詰めてる先で、水面がバシャバシャと騒がしい。クロコディアだった。たぶん、クロコディアが獲物の奪い合いをしてるんだろう。河には、大きいものなら全長二メートルを超える巨大な魚も多く住んでいて餌に困ることはないものの、こうやって餌を奪い合うこと自体がクロコディアにとってはこの世界で生き抜く力をつけるための鍛錬になってるようだ。


そこで餌を奪えればそれでよし。しかしそうやって餌を奪える力のない個体は淘汰される……とは限らなくて、そこで知恵を絞って、仲間に餌を奪われないようにこっそりと狩りを行うという方向性で頑張るらしい。


弱いなら弱いなりに工夫して生き延びようとするんだ。自然ってのは単なる<弱肉強食>というわけじゃないというのがそこからも分かる。大したものだよ。


そして久利生くりうも、危険な生物は警戒しながらも、わざわざ自分の方から襲われに行くようなことはしない。強いからって何をしてもいいというわけじゃないというのをわきまえているんだろうな。


あかりとビアンカも、そんな彼を手伝って、植物などのサンプルを採取する。


その最中、あかりが、


「で、久利生くりうとビアンカってどこまでの関係だったの?」


とか訊いてくる。


それに対してビアンカは、


「え? あ、あの…え、と……」


と歯切れが悪い。久利生くりうに遠慮していたようだ。しかし当の久利生くりうは、


「そうですね。皆さんが<不定形生物>と呼称しているあの生物内においてはお付き合いさせていただいてるつもりでしたが」


ためらいなく応えた。そんな彼の潔さに、


「お~っ!」


あかりも興奮気味に声を上げる。そして、


「いいね! いいよ! 私もなんか久利生くりうのことが好きだ! ビアンカのライバルとして名乗りを上げていいかな?」


って。


な、なんだとう…っ!?


いや、確かに久利生くりうは、臆病で慎重で、


<放っておけない弟キャラ>


じゅんとは正反対な、超人的な強さを感じさせるが、それにしたって、なあ……


だが、俺達人間よりはずっと野生寄りのメンタリティを持つあかりにとってはむしろ自然なことなのかもしれない。直感で相手を選ぶというのは。


そんなあかりに、ビアンカは、


「え…と、わ、私も譲るつもりないから!!」


と、戸惑いながらも言い返した。


そうだな。変にウジウジしてるよりはこうやってはっきりとさせた方がいいんだろうな。ここでは。


すると、


「これは……素敵な女性にそうおっしゃっていただけるのは大変に光栄ですが……ちょっと、困りましたね……」


それまでの彼とは少し印象の違う、どこか戸惑ったような気配が伝わってきたのだった。


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